音声ブラウザ専用。こちらより記事見出しへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより検索フォームへ移動可能です。クリック。

NIKKEI NET

社説1 外需依存経済の限界示した景気後退(8/8)

 内閣府は8月の月例経済報告で「景気はこのところ弱含んでいる」と分析し、景気が後退局面に入った可能性があるとの見方を示した。原油価格の上昇など資源高による悪影響に加え、海外の成長鈍化で生産や輸出が悪化したのが理由だ。

 資源高ショックは世界中を覆っている。原材料の多くを海外に頼る日本経済がその打撃を大きく受けたのはある意味ではやむをえない。

 ただ、景気が事実上後退局面入りしたことは、そうした外部ショックをはねのけるだけの力強さが内需になかったことをも示している。2002年2月からの長い景気拡大局面が結局は外需頼みだったことの限界を浮き彫りにしたとも言える。

 内閣府が景気の基調判断を変える大きな要因になったのは生産の予想以上の減少だ。4―6月期の鉱工業生産指数は2四半期連続のマイナスとなった。

 背景には米国に続き、アジアや欧州でも景気が悪化し始め、輸出の伸びが鈍ってきたことがある。資源高に伴う経費膨張に苦しむ企業にとってはダブルパンチになる。企業収益の悪化で雇用や賃金にも陰りが出ており、消費にも停滞感が出てきた。

 問題は先行きだが、今の段階ではなかなか読みにくい。

 一つだけはっきりしているのは雇用や設備に大きな過剰感がない点だ。1990年代の「失われた10年」では、雇用、設備や企業の債務が過大になり、その調整に時間がかかった。今回はそうした大調整の必要はなく、この点に限れば、景気の落ち込みは限定的と見ることもできる。

 不透明なのは資源価格や海外景気の先行きだ。海外景気が一段と落ち込めば、輸出や生産はさらに悪化する。一方、原油価格が需要減少の見通しから低下すれば、日本経済はプラスの影響を受ける。こうした外部要因が従来以上に景気後退の深さや長さを左右することになりそうだ。

 月例経済報告の景気判断は政府の公式見解であり、政府・与党が検討している経済対策にも影響を及ぼす。懸念されるのは景気悪化の判断に名を借りて財政面でばらまき政策が取られることである。

 景気の転換点を迎えるにあたって政府が目を向けるべきなのは、むしろ構造的な内需の弱さであろう。

 02年以来の景気拡大局面は60年代後半から70年にかけての「いざなぎ景気」を超す戦後最長となったが、成長への寄与度は外需が内需を大きく上回った。規制改革や起業の促進など中長期的な「内需力」を高める政策を強化するのが本筋だ。

社説・春秋記事一覧