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社説:財政再建先送り 原則は愚直に掲げ続けよ

 福田改造内閣が発足して1週間もたっていないというのに、福田康夫首相も堅持を明言している財政再建目標を先送りしようという発言が飛び出した。福田首相が挙党体制の象徴として自民党幹事長に据えた麻生太郎氏の口からである。

 麻生氏は景気が悪化している状況下で、11年度に国と地方を合わせた財政の基礎的収支を黒字化させる政府目標は取るべき選択ではないと主張した。さらに、小泉政権時代の国債発行30兆円枠を持ち出し、「全然こだわらない」とも語った。08年度の補正予算や09年度の当初予算編成に当たって、国債の大幅増発も辞さない姿勢で臨むべきだと受け取ることができる。

 これまでも、政府・与党内では、財政運営をめぐり、経済成長を重視する中川秀直元幹事長らと増税なども避けるべきではないとする与謝野馨経済財政担当相らとの論争はあった。

 ただ、いずれの側も11年度の基礎的財政収支黒字化の達成を目指すことでは一致している。

 その点、麻生氏の「景気対策最重視、財政再建先送り」の考え方は、経済政策そのものの大転換を意味する。一時は40兆円にも迫っていた新規財源債の発行額は08年度当初見込みでは25兆円強に収まっているが、こうした状況は一転する。

 国債増発となれば、ここ数年、累増額を抑制するため、財政投融資特別会計の準備金などを使ってきた残高抑制も、何だったのかとなる。財政再建は出発点に戻るのだ。

 政府は7日、月例経済報告の基調判断から景気回復の表現を削除した。また、内閣府の景気動向指数では6月分について、「景気は悪化している」との判断を下した。物価上昇は家計に負担となってきている。原油価格上昇は農業や漁業を苦境に追い込んでいる。

 そうしたことへの対策は政府・与党として当然のことだ。だからといって、財政を健全化することを先送りしていいとはならない。

 今回の経済対策策定でも必要な財源をどこから持ってくるか大きな問題になっている。財政が火の車で余裕はほとんどないからだ。国債の元利払いが一般の歳出を圧迫しない水準まで国債残高を減らすことの重要性はむしろ高まっている。

 小泉政権時代に、「国債30兆円」の旗はぼろぼろになっても降ろされなかった。そのことで国債を増発するにしても抑制が働いた。11年度の基礎的財政収支黒字化も同じだ。動かしてはならない。

 福田首相はこのことを肝に銘じるべきだ。基礎的財政収支は財政健全化の一里塚に過ぎない。その先には国債残高を減らし、国、地方が適正な住民サービスや景気対策ができるようにすることがある。経済運営に機動性は必要だが、財政再建では原則を愚直に掲げ続けなければならない。

毎日新聞 2008年8月8日 東京朝刊

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