日本で起きた中国製冷凍ギョーザによる中毒事件と同様の中毒被害が中国でも6月に発生していた。日本での事件が発覚したあと、製造元の中国の食品会社が回収したギョーザが中国国内で流通し、それを食べた中国人が有機リン系殺虫剤「メタミドホス」による中毒を起こしたという。
中国外務省もこの事実を確認しているが、日本で検出された殺虫剤と中国で検出された殺虫剤が同一のものかどうかについては言及していない。
そうはいっても、同じ食品会社が製造したギョーザであることや、どちらのギョーザからも日本国内では流通していない農薬用殺虫剤が検出されたことなどを考えれば、中国国内で混入した疑いが濃厚と見るのが自然だろう。
日本では中国製冷凍ギョーザを食べた千葉、兵庫両県の3家族10人が中毒を起こし、そのうちこども1人が一時意識不明になるなどの健康被害を受けた。これを受け日中両国は警察当局が情報交換会議を開くなどしたが、「日本国内で混入した可能性は少ない」とする日本側に中国側が強く反論し、事件の解明は進んでいない。
今回、中国外務省は中国国内での中毒事件発生を認め、「中国政府はこの事件を極めて重視し、公安部門が全力で調査を展開している」としている。これまでの姿勢に比べれば事件解明へ一歩踏み出したとも受け取れる。
日本で中毒事件が発生してからすでに8カ月近くになるが、いまだに殺虫剤の混入ルートは明らかにされず消費者の不安は解消されないままだ。
五輪開会式出席のため8日に訪中する福田康夫首相は胡錦濤国家主席、温家宝首相と会談する。首相にはこの機会に、事件の真相究明作業を加速するよう中国側に強く求めてほしい。再発防止へ向けた「食の安全」に関する実効ある協力体制は、事件の解明なくしては整備できるはずもないからである。
一つ指摘しておかなければならないのは、中国での中毒事件発生が中国側から外交ルートで日本側に知らされたのは北海道洞爺湖サミット前の7月上旬だったということである。日本政府は1カ月以上もこの情報を伏せていたことになる。
その理由について高村正彦外相は、捜査への支障を避けるための中国側からの要請によるものだったと説明している。
相手国との約束を守ることが外交上、重要であることを否定するものではない。だが、国民の安全を守り、安心を確保することは政府の基本的な役割であるはずだ。
今回は消費者の安心より中国への配慮を優先させたということだろうか。この疑問に、「安心実現内閣」を掲げる福田首相は明確に答える必要がある。
毎日新聞 2008年8月8日 東京朝刊