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2008年8月8日

◎北京五輪が開幕 ふるさと愛をはぐくむ機会にも

 史上最多の国・地域が参加して開幕する北京五輪に、日本代表として出場する石川県関 係九選手の健闘に熱い声援を送りたい。この石川の地で練習を積み、技を磨いた選手たちの活躍に目を凝らすことが郷土への誇りを生む。スポーツに夢を抱くこの地の子どもたちにとっても、大先輩の活躍は大きな励みになるだろう。またそれは、単にスポーツだけにとどまらず、地域に愛着とつながりを深める「ふるさと愛」をはぐくむ機会にもなるのではないか。

 石川のスポーツ界の歩みを振り返れば、五輪には一九三二年の第十回ロサンゼルス大会 に陸上男子三段跳びで大島鎌吉選手(金沢市)が参加し、銅メダルを獲得した。これを皮切りに延べ七十一人が五輪に出場し、銀と銅を六個ずつ獲得している。

 近年では、世界中からトップ選手を集めて開かれる大規模な競技大会が珍しくなくなっ てきたが、それでも五輪は、スポーツを志す者なら、だれもがあこがれる最高峰の舞台である。

 石川県が、水泳競技で現在まで続く「飛び込み王国」を築く原動力となったのも、これ まで数多くの選手を五輪の場に送り出し、その活躍を励みにして後進が育ち、この地域の競技レベルを押し上げてきたことも大きな要因であっただろう。

 その意味で、今回、石川のウエイトリフティング界から初めて、二人の選手が五輪の舞 台に立つことは、新しい「ウエイトリフティング王国」を築く種まきになるに違いない。

 金沢市は既にウエイトリフティングの「聖地」として、総務、文部科学省の「スポーツ 拠点づくり推進事業」で、高校選抜大会の継続開催地となっている。質の高い競技環境に加え、この地をホームグラウンドとする五輪選手が存在することは、地元のみならず、同競技をめざす選手に強いインパクトを与えるだろう。「王国」づくりの先導役となる二選手の活躍を大いに期待したい。

 もちろん、ウエイトリフティングとともに、飛び込み、バドミントン、柔道、ソフトボ ール、バレーボール、サッカーに出場する県勢の中には、石川県では初めての金メダルの期待がかかる競技もある。郷土における競技の底辺拡大の起爆剤にもつながるように、ふるさとからの応援を背に、頂点めざして奮闘してほしい。

 ところで北京五輪は、超大国への道を突き進む中国の光と影を映し出している。独立を 求める少数民族の過激集団が起こしたとみられるテロや、地方政府の腐敗などに不満を募らせる住民の暴動が続き、威信をかけた警備態勢にもかかわらず、その懸念は消えない。中国が抱えるさまざまな矛盾や問題が皮肉にも「平和の祭典」のスポットライトに照らし出され、噴き出した格好である。

 中国国内で「百年の夢」の実現と言われる北京五輪は、国威発揚にうってつけである。 列強に虐(しいた)げられた近代史は中国に屈辱感を与えているが、五輪はそうした歴史の負い目を消し去り、国民に強い自信を与えることになろう。

 今年は中国共産党が改革・開放路線に転換して三十周年の節目でもあり、五輪によって 社会主義市場経済の正しさを証明したい思いもあるとみられる。それだけに「安全な五輪」の実現は中国政府の至上命題である。

 国際社会もそれを強く願っているが、中国側の対応に懸念もぬぐえない。大国ぶりを誇 示する五大陸の聖火リレーは、チベット弾圧に対する抗議行動で出迎えられた。それは民主化や少数民族の人権尊重を求める国際社会の声に真摯にこたえてこなかったツケと言えるのだが、中国は独善的なナショナリズムでこたえ、国際社会を鼻白む思いにさせた。過剰でゆがんだ愛国主義は五輪精神と相入れないものである。

 テロ防止の行き過ぎた取り締まりが、日本人記者への暴行やネット規制による取材制限 などに現れているのも気掛かりである。国際社会の安定に「責任を持つ大国」というにふさわしい対応、振る舞いが五輪で試されることになる。


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