埼玉県深谷市の元暴力団員による生活保護費不正受給事件で、県警は、市が元組員に支給した直近3カ月分約43万円の生活保護法違反容疑(虚偽申請)による立件を断念した。県が監査で市に不正を指摘したのに、市が支給を続けたことが壁となった。同容疑で立件できた部分も、詐欺など、より刑罰の重い容疑は立件できなかった経緯があり、県警幹部は「組員に甘い姿勢は、利益を受けていなくても共犯者と同じ」と批判している。
県警は、韓国籍で深谷市上野台、元稲川会系暴力団組員、崔鳳海(チェボンヘ)(60)と妻育代(44)の両容疑者を5日、生活保護法違反容疑で再逮捕した。立件したのは06年7月~07年10月の医療扶助費約220万円分で、当初詐欺容疑の適用を検討したが、市職員がだまされた事実はないとして断念していた。
今回立件を断念した43万円は07年11月から3カ月分。通院していない群馬県内の接骨院で治療を受けたとして医療扶助費を申請した点を捜査。背任や恐喝罪での立件も検討したが「市職員は利益を得ていないので背任罪には問えない。職員自ら申請書類を記入するなど度を越えたサービスだったから恐喝罪もダメ」(捜査幹部)と手詰まりに。最も刑が軽い生活保護法違反も昨年10月に県が監査で指摘した以降「市は不正を承知していたといわざるをえない」(同)として立件を断念した。
一方、市は「交通事故の保険金約2200万円を受け取りながら、市に隠して生活保護を受けた」と、崔容疑者らに支給した計1944万円のうち、約1800万円の返還を求めている。返還されなければ市が一部を国庫に返還することになるという。【浅野翔太郎】
毎日新聞 2008年8月7日 2時30分(最終更新 8月7日 2時30分)