2008年04月26日

『ボクの満州 漫画家たちの敗戦体験』

一ヶ月ぶりの東京。
葉桜から、すっかり新緑の季節に移っている。

中国引揚げ漫画家の会編『ボクの満州 漫画家たちの敗戦体験』
bokunomanshu

新聞の訃報欄から、漫画家上田トシコが3月7日に亡くなられたことを知った。
90歳、葬儀は近親者で済ませ、喪主は姉だったという。
90歳の妹の葬儀に、喪主を務めたという姉は何歳なのだろうか。

上田トシコは満州での体験を描いた代表作『フイチンさん』などの作者。
1945年8月、28歳の時、満州で敗戦を迎え、翌年11月引揚げ。
上田トシコの満州での体験は、開拓団の農民や幼い子ども、乳飲み子を抱えた女性たちの体験と比べれば、まだよい方だったと言わなければならない。
満州で幼少期を過ごした漫画家たちの体験記、そのなかにもっとも年長の28歳で敗戦を迎えた上田トシコの印象的なエピソードが綴られている。

ハルピンを引き揚げる直前のことである。

「家を明ける前日だった。春先になると窓拭きにきてくれる白系ロシア人のおばさんが、娘さんに手を引かれて分かれにきてくれた。おばさんは日本婦人がソ連兵に強姦されそうになったのを必死で助けようとしたときに、銃の台で叩きのめされて盲目になったという。お礼をいうと、
 「いいんだ。日本の女性を助けたんだから」
 と、ほほえんだ美しいおばさんの顔が忘れられない。
 おばさんが帰るや、バタバタっと三民劇場の軍属夫人が妹さんと駆け込んできた。
 「元気で妹と食べ物屋で働いています。お金ができたら後から帰ります」
 と、元気な姿を見せてくれて胸が熱くなった。ボイラー炊きの王(ワン)さん夫婦は徹夜で乾菓子を作って持ってきてくれるし、馬(マー)さんもなにくれとなく世話をやいてくれる。今日がハルピンでの最後の日かと思うと、人にも、家にも、ハルピンにも、別れがたい感傷にひたる。」(18ページ)

こうした満州体験も、確かにあったのだろう。
ロシア人、中国人との交流の体験も貴重な記録だ。

赤塚不二夫、ちばてつや、森田拳次らも、幼少期に満州を体験し、日本に引揚げたのち、漫画家になった人たちである。

中国引揚げ漫画家の会編『ボクの満州 漫画家たちの敗戦体験』亜紀書房、1995年刊、定価1580円。
古本価格900円程度から。

なお、上田トシコの作品はいずれも絶版で市場にもほとんど流通していない。
『フイチンさん』(虫コミックス) 虫プロ、1969年刊、古本価格は5000円超。
『お初ちゃん』(虫コミックス) 虫プロ、1968年刊、古本価格は6000円から。




koshotaiza at 08:23 │Comments(0)TrackBack(0)この記事をクリップ! 古本 

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更新日時:2008/08/07

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