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【結いの心】鉄くずまで削られる トヨタの足元<8>2008年5月18日
あこがれの大人たちがいた。 名古屋でトヨタ系の町工場を営む40代の社長にとっては、たとえば元中日ドラゴンズの星野仙一投手(現五輪代表監督)。1974(昭和49)年、セ・リーグ優勝を決めたマウンドの勇姿は今も目に焼きついている。 工場の先代だった「おやじ」が、たまにキャッチボールしてくれるのが「うれしかったなぁ」。大黒柱のおやじが“ヒーロー”だったし「あの人たち」もそうだった。 トラックに乗り、おやじとよく行った上位メーカーの工場。「職人さんたちが中から出てきて『元気か』『よく来たな』って声をかけてくれるんですよ」と懐かしむ。頭をなでる分厚い手と野太い声。「男らしいなぁ、ってね」 随分と大きく、きれいになったその工場で先日、幹部社員にこんなことを言われた。 「小さいところはつき合いづらいから早く大きくなって」 ちょっときつめの「励まし」だと信じようとしたが、その後、自分の工場に来た若手社員が口にした“本音”はこう。「知れた発注量の取引先に人手を割かれるなんて、もったいない」 10年ほど前、病気で倒れたおやじに代わり「社長」になったとき、おやじは言った。上位メーカーの名を挙げて「一緒に大きくなるんだ。ついていけば大丈夫だから」と。 「(下請けの)仕事が安すぎるんじゃないか」と不満をぶつけた時には、笑って諭されたものだ。「お客さん(上位メーカー)がもうかって大きくなれば仕事も安定する。うちは一生懸命働けばいい」 今も工場には機械を冷やすエアコンがあるだけで、人間用はない。 以前なら作業で余った鉄くずをスクラップ屋に売ることもできたが、厳しいコスト削減で「鉄くずの量まで把握されて、その分も削減対象になっちゃう」という。 昨年、全体の売り上げは3割増だったが、収支は赤字だった。 先代のころ、上位メーカーと下請けとの関係はまさに「親子」だったと思う。たまにむちゃなことも言われるけれど、全部「自分のため」だと信じられた。しかし今は「もうけもほとんど吸い上げられて。親子だなんて、とても、とても…」。 トヨタ系も、世の中全体も変わってしまった。そんな今の時流が、社長にはたまらなく「寂しい」。
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