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【結いの心】「母さんを頼んだぞ」 眠らぬ街<3>2008年5月29日
肺がんで昨年他界した父は、彼(32)と兄(45)に言い残した。 「母さんと姉さんを頼んだぞ」 70代で年金生活の母と、進行性の病で体が不自由な姉。だが、有効求人倍率が低い北海道では、2人を養うだけの稼ぎ口が見つからない。母と姉を残し、故郷を出るしかなかった。 兄は長野県へ。彼は愛知県豊田市にあるトヨタ系の自動車部品会社へ。どちらも派遣社員として働く。家族はバラバラになった。 「本当は地元で就職して、面倒を見たい。でも、北海道じゃ仕事がないんだ」 高卒後、地元で自動車整備会社や水商売、建設現場の仕事など職を転々とした。どの仕事も時給が1000円に届かない。「これじゃ、アルバイトと変わらない」。今年2月、求人誌でトヨタ関連の仕事の好条件に目を奪われた。 「北海道とは格段に違う」 愛知県内の派遣会社に電話すると、すぐに自動車部品会社を紹介された。時給は1250円。寮に入り、月20万円の手取りのうち、10万円を母と姉に仕送りしている。 同じ寮には北海道や東北、沖縄出身の派遣社員が多い。同じ道産子なまりを聞くと、話に花が咲く。 「内地にしか、なまら(とても)仕事がねえもんな」「したって(けれど)いつクビにされるか分からん調整弁だ」「体を悪くして辞めてくのも多いぞ」 そんな話をするうち、派遣生活を続けるのか、故郷に帰るべきなのか迷う。 派遣社員の労働相談を受ける管理職ユニオン・東海の平良博幸書記長(48)は、故郷を離れて不安定な暮らしをする彼らを「派遣難民」と呼ぶ。最近は子連れで派遣会社の寮を転々とする夫婦も多く、保育園になじめず両親が帰るまで寮に独り、暗いうつろな表情で待つ幼児も見た。 「居場所がころころ変われば、人間関係が寸断され、情緒も不安定になる」 地域間格差と非正規雇用の拡大で「日本がゆがんでいくようで怖い」という。 派遣で働く北海道出身の彼には、おぼろげな夢がある。会社員を定年退職後の父が母と営んでいた小さなラーメン店を再開することだ。 「いつかまた、母さんたちと北海道で暮らしたいんだ」 衰退した古里に自分なりの“錦”を飾る−。その日が必ず来ると信じて。
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