更新:8月7日 11:00インターネット:最新ニュース
予想外の資金を集める未公開ベンチャー・日本のウェブ2.0のいま(上)
日本の「ウェブ2.0」系ベンチャー企業の経営実態はどうなのか――。富士通総研はNPO法人Japan Venture Research(JVR)と共同で、国内の未公開ウェブ2.0系企業43社の設立から直近までの業績、資金調達、事業の状況や代表者のキャリアなどを調査した。この調査を基に、国内のネットベンチャーに対する期待度と不安材料、そしてネットビジネスの未来について2回に渡って考察してみたい。(湯川抗) 今回の調査は、2005年4月から08年1月末までの間に第三者割当増資を行ったことが明らかになっている未公開のインターネット企業156社のうち、ウェブ2.0系企業として43社を抽出して分析を行った。ここではウェブ2.0系企業を、「ユーザー参加を促すことで企業の価値を向上させている企業、そのためのアプリケーション開発、技術開発を行っている企業」と定義している。なお、詳細な調査結果は「Web2.0企業の実態と成長の動向(未公開企業編)」にまとめている。
■順調な資金調達と高い企業価値 調査対象とした43社のウェブ2.0系企業のうち、半数以上は05年以降に設立された企業であり、設立後の平均経過年数は3年弱だった。この間に1社平均2億2400万円の資金調達を行っている。
これに対し、すでに株式公開を果たしたウェブ2.0系企業が設立3年目までに調達した平均金額は1億8500万円であることが、昨年実施した調査でわかっている。 ビジネスモデルが定まらないことも多い未公開企業が、成功した公開企業よりも多額の資金調達に成功しているというのは意外な結果である。しかも公開企業は設立から上場まで平均6年を要していることを考えると、今回調査した未公開企業は初期段階にして公開企業以上に潤沢な資金調達に成功しているといえる。 また、調査時に一番近い増資時点における未公開企業1社あたりの平均企業価値(ポストマネー)は7億円であり、これも株式公開を果たしたウェブ2.0系企業の設立後3年目における1社あたり平均企業価値(6億3600万円)を上回る。投資家の大きな期待が高い評価につながっていることが推測される。 未公開企業がその成長過程において、同時期の公開企業以上の資金調達や企業価値評価の獲得に成功している背景には、投資環境の違いがある。公開企業の多くはインターネットバブル崩壊直後の2000年前後に設立されているのに対し、調査対象とした未公開企業の多くは05年以降に設立されている。バブル崩壊以降、ここ数年まで投資環境は改善しており、近年のウェブ2.0という言葉の大流行が投資家の心理に影響を与えた可能性も高いだろう。 ■投資は経営者の資質を重視 しかし、このような外部環境だけが順調な資金調達の成功や積極的な企業価値評価の原因ではないだろう。分析対象企業の設立後平均経過年数は3年程度と、非常に若い企業が中心であることを考えると、投資家は企業の事業計画や将来キャッシュフローの予測などを基に投資をすることが困難であるため、経営者の資質に重点をおいて投資を行っている可能性が高い。 具体的には、経営者に関連分野での経験や、経営に関する知識があったこと、インターネットビジネスに関する造詣が深かったことなどが投資のポイントになったと考えられる。 分析対象企業の経営者の経歴をみると、すでに上場を果たした大手インターネット企業、その他業種の大企業、コンサルティングファームなどでビジネス経験を積んだうえで起業した経営者が8割近くにのぼる。例えば、エニグモ社長の須田将啓氏は博報堂、コネクティ社長の服部恭之氏はソニー、アイスタイル社長の吉松徹郎氏はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て起業している。
年齢別では、30代で起業したケースが最も多く全体の約半数を占める。調査時点の年齢で最も多いのも30代で、40代の経営者と合わせると、全体の8割以上を占める。 設立間もない企業が投資家から積極的な投資を受けることができた背景には、経営者の経歴や進化するインターネットビジネスに対する感度などが、投資家を安心させる材料となったのではないだろうか。 インターネット企業の経営者の経歴や年齢に関する正確なデータは存在しないため、経営者の経歴などに関して過去と正確な比較をすることはできない。しかし、個人的には、90年代後半、あるいはインターネットバブルの頃と比較すると、ビジネスの経験やITに関する知識の豊富さといった観点でみて、経営者が進化しているように感じることが多い。 インターネットビジネスの領域で起業する起業家自体の進化が、ベンチャー企業の資金調達や企業価値の向上に結びついているとすれば、今後もインターネットベンチャー全体が底上げされる可能性が高く、その展望は明るいといえよう。 ■急速かつ実態を伴う成長 この調査が分析対象とした未公開のウェブ2.0系企業は売上高、従業員数を毎年順調に増加させており、急成長している。分析対象企業の8割が赤字であるものの、従業員一人当たりの損失は毎年減少しており、今後の成長スピードによっては早期に黒字転換できる可能性もある。また、ベンチャー企業の場合、成長過程においてある程度の赤字が発生することは十分許容されるであろう。
今回の調査では、企業の成長ステージを定義し、個々の未公開ウェブ2.0企業に関して設立時から直近の決算期までの成長ステージを明らかにすることができた。平均企業価値が高いことは先に述べたとおりであり、これをバブルとする見方もあろう。しかし、この平均企業価値を上げているのは、毎年着実に成長ステージを向上させている企業である。
例えば、設立1年目は製品・サービス開発、2年目はベータ版の供給、3年目には完成した製品の出荷やサービスインというように、毎年事業を発展させ、次の成長ステージへの移行に成功した企業だけを見た場合の平均企業価値は15億円にものぼる。 そして、これらの企業は売り上げ、従業員数ともに大きく成長している。インターネットビジネスが進化の過程にあり、ビジネスモデルが描きにくくなるなかでもこうした企業が存在することは明るい材料であり、他のベンチャー企業にとってはベンチマークとなるであろう。 (「日本のウェブ2.0のいま(下)」は8月8日に掲載予定)
[2008年8月7日] ● 記事一覧
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