【ワシントン及川正也】米紙ロサンゼルス・タイムズ(電子版)など米メディアは1日、01年秋に米国で炭疽(たんそ)菌を同封した郵便物が送られ5人が死亡した事件で、米司法省が訴追対象としていた科学者が先月末に自殺していたと報じた。
科学者はメリーランド州にある陸軍感染症医学研究所に18年間勤務していたブルース・アイビンス氏(62)。報道によると、同氏は炭疽菌のワクチン研究を手がけていたが、限られた動物実験に不満を持っていたとされ、米連邦捜査局(FBI)はワクチンの効果を試すために事件を起こしたとみているという。
生物・化学兵器研究の拠点である同研究所は早くから捜査対象となった。容疑をかけられた生物学者が潔白を主張して国に損害賠償を請求。今年6月に国が582万ドル(約6億2000万円)を支払うことで和解した。
同紙などによると、アイビンス氏は同僚の和解を知った後、うつ状態になり、同氏を捜査対象としていた警察当局が仕事場から隔離。入院した同州内の病院で7月29日、鎮痛剤などを大量に飲んで自殺したという。
司法省は1日、科学者の自殺に触れずに「炭疽菌事件で重大な進展があった」とする声明を発表した。一方、アイビンス氏の弁護士はAP通信に同氏の無実を主張。自殺は当局による「容赦ない圧力」が原因と非難した。
この事件は01年9月の米同時多発テロ直後に発生しただけに、「生物テロ」として全米を震撼(しんかん)させた。
毎日新聞 2008年8月3日 東京朝刊