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社説

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中国ギョーザ―事実を国民に公表せよ

 真相解明が立ち往生していた中国製冷凍ギョーザの中毒事件について、驚くような事実が報道で明らかになった。日本で事件を引き起こしたメーカーのギョーザを食べた中国の人たちも、中毒症状を起こしていた。

 原因をめぐっては、日中双方が自国で混入された可能性は低いと主張し、平行線をたどっていた。それが中国でも中毒事件が発生し、日本で検出された有機リン系農薬成分メタミドホスが原因と特定されたとなれば、中国国内で混入された疑いが濃厚になる。

 中国政府も国内での中毒の発生を認め、「全力で捜査している」との談話を発表した。

 事件は食の安全にかかわるだけに、日本国民の対中感情を冷え込ませ、日中関係に深刻なあつれきを生じさせていた。中国は捜査を急ぎ、一日も早く事件の全容を解明して公表してもらいたい。

 それにしても、である。

 この事実が7月の洞爺湖サミットの直前に外交ルートを通じて日本政府に伝えられていたのに、国民には一切知らされなかったことが理解できない。

 福田首相は「わが国の捜査当局と情報交換している状況だ。どういう状況か今申し上げるわけにはいかない」と述べたが、この弁解も納得できない。ことは人々の命にかかわる問題である。政府はただちに事実を公表すべきだったし、いまわかっていることをきちんと説明すべきではないか。

 ギョーザ事件は、洞爺湖サミットの際に開かれた日中首脳会談でも取り上げられた。首相が捜査協力の継続を要請し、胡錦濤国家主席は関係部門に捜査を加速するよう指示している、と回答していた。

 この時点で、首相は中国でも中毒症状が出ていたことを知らなかったのだろうか。知らなかったとしたら、とんちんかんなやりとりだし、知っていたとしたら、何らかの配慮から事実を脇に置いて、当たり障りのないことだけを言ったことになる。

 中国側の対応にも疑問がある。中国での中毒の発生を日本政府に伝えた際、公表しないように求めたのか。そうであったとすれば、なぜか。

 もし中国が北京五輪への悪影響を恐れ、ギョーザ事件の事実の公表を遅らせようとしていたとするなら、それは考え違いだ。都合の悪い情報を進んで公表した方が、日中間の信頼の回復に役立つからだ。

 くさいものにふたをするのではなく、原因の究明に熱心に取り組む誠実な姿勢が望まれる。そうしたことを日本政府も中国側に説くべきだった。

 福田首相は五輪開会式に出席のため8日に訪中し、胡主席と会談する。両首脳は事件の全容解明と公表を急ぐことをきちんと確認すべきである。

「景気対策」―「借金で」の誘惑を断て

 戦後最長と言われた景気が、いよいよ後退局面に入ってきたようだ。内閣府もきのう、景気動向指数の基調判断を「悪化」と下方修正した。

 内閣改造を終えた福田首相は、休む間もなく、総合的な物価・景気対策を週内にまとめるよう指示を飛ばした。景気への不安に応えるため、スピード感をもって取り組んでもらいたい。

 そこで忘れてはならないのは、90年代の「バラマキ財政」を繰り返さないという大原則だ。バブル崩壊後、公共事業などに総額100兆円以上を投じた景気対策は、期待されたほどの効果がなかったばかりか、膨大な借金を国家財政に残した。

 その結果、今では社会保障を毎年切りつめ、大幅な増税をしなければ将来の財政均衡さえ見通せない惨状だ。

 ところが、新しく自民党幹事長になった麻生太郎氏からびっくりするほど露骨な発言が飛び出した。

 11年度に基礎的財政収支を黒字化するという目標は「先送りも選択肢」。新規国債の発行を年間30兆円以内におさめるという、小泉政権以来の財政の歯止めにも「全然こだわらない」。

 景気対策のためなら財政再建や財政規律は二の次、三の次と言わんばかりだ。またぞろ、財政の大盤振る舞いでてこ入れしようというのだろうか。

 対策が必要なのは分かるが、借金に頼るのでは今の痛みを和らげる薬を将来世代へのツケで買うことに等しい。子や孫たちはすでに十分すぎるほどの借金を背負わされている。

 麻生氏は「ポスト福田」の最右翼と目されている。近づく衆院の解散・総選挙を意識して、発言のアクセルをふかしているのかもしれない。だが、いきなり歴代政権の最低限の財政再建目標をなし崩しにしようというのでは、首相候補としていかがなものか。

 物価や景気対策は新たな借金に頼らず、今年度予算の予備費3500億円、昨年度予算の剰余金のうち使用可能な約3千億円などの財源から工面するのが現実的ではないか。

 原油(fuel)と食糧(food)の高騰による「FFインフレ」で、世界規模で価格調整が進んでいる。これに適応できるよう日本経済の構造を変えていく。これが今求められている対策の王道である。

 しかし、実際には材料費や燃料代などの高騰が急激すぎて、価格に転嫁できずに苦しんでいる酪農や長距離トラックのような業界が多い。こうした点で、中小企業の当面の資金繰りを支える緊急の融資制度なども必要だろう。

 民主党はどんな対策を考えているのか。野党の気楽さから「バラマキ」に輪をかけるようでは、有権者の信頼を失う。厳しい財政の下でどう景気を支えるのか。現実的で説得力のある対案を示してもらいたい。

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