東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

五輪とテロ 中国の過剰警備を憂う

2008年8月7日

 八日の北京五輪開幕を控え、中国は厳戒態勢に入った。新疆ウイグル自治区ではテロ事件を取材中の本紙記者らが治安部隊に暴行された。過剰警備が市民の権利や報道の自由を侵害することを憂う。

 中国当局は五輪に先立ち、チベット族やウイグル族が抗議活動を行う恐れがあるとして上京を事実上規制した。百万人という出稼ぎ労働者をほとんど帰郷させた。各地から百数十万人規模の警察や軍を動員し、街頭には市民のボランティアといわれる監視要員を配置した。

 厳戒は競技場内も同じで応援の横断幕は一律に禁止され、国旗の持ち込みも制限される。

 五輪の安全確保は主催国にとって至上命令だが、国民を少数民族や農村出身だからという理由で首都から閉め出すのは行きすぎと言わざるを得ない。

 厳戒態勢を突いて、新疆ウイグル自治区西部のカシュガルでは四日、治安部隊の武装警察が手投げ弾で襲撃され警察官十六人が死亡、十六人が負傷した。

 中国当局はウイグル族の男二人による「テロ攻撃」だったと発表している。同自治区では当局が「イスラム独立勢力」と見なすウイグル族グループに対する掃討作戦が二〇〇一年の米「9・11テロ」以降、強化されてきた。

 治安部隊を直接の標的に大量の殺害を企てる攻撃は一部ウイグル族の反発が頂点に達していることを示すもので、武断路線の限界を示したのではないか。

 事件の取材で四日夜、現地入りした本紙写真部の川北真三記者ら日本人記者二人が武装警察に暴行される事件が起きた。

 川北記者は、現場近くで数人の武装警察官に地面に倒され、頭部を踏み付けられたうえ、脇腹やあごに殴るけるの暴行を受けた。カメラを奪い取られ約二時間にわたって拘束された。

 現場で報道に従事する記者に、有無を言わせず暴力を振るうのは許せない蛮行だ。しかし、抗議に対し、中国外務省がただちに遺憾の意を表明し、地元責任者が謝罪した。

 中国で当局と外国報道機関のトラブルは、たびたび起きているが公に謝罪したケースはほとんどなく、その対応に注目する。

 北京五輪の期間中、世界が見ているのは、大会運営や競技ばかりではない。中国政府が市民の権利や報道の自由を、どう取り扱うか注視している。そのことを、中国政府は銘記すべきだ。

 

この記事を印刷する