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社説:北京五輪開幕 開かれた中国へのステップに 日本の新星の出現に期待

 北京五輪が8日開幕する。過去最多の205の国と地域から1万人を超える選手が参加、24日までの2週間余、28競技302種目の熱戦が繰り広げられる。開会式に先立ち6日から女子サッカーが始まり、戦いの火ぶたは切られた。

 夏季五輪は、世界中の人々が寄せる関心の高さと、報道される情報の多さから「地上最大のイベント」といっていい。8日夜の開会式には福田康夫首相やブッシュ米大統領ら各国首脳が顔をそろえる。五輪が単なるスポーツの祭典にとどまらないことを物語る象徴的な開会式となりそうだ。

 とりわけ北京五輪は、さまざまな意味で世界中の注目を集める大会となった。

 国際オリンピック委員会(IOC)が08年の開催地に北京を選んだのは7年前だ。中国国内での民主化を求める声や少数民族対策などを懸念する声もあったが、「本番までに改善する」という中国側の説明にIOCはゴーサインを出した。五輪スポンサー企業には世界の人口の5分の1を占める13億人の巨大マーケットが魅力的に映ったのだろう。中国がこの時の「宿題」を忠実に実行していれば、その後の混乱の多くは回避できたはずだ。

 ◇聖火リレーの誤算

 中国は今年、改革開放政策30年の節目に当たる。五輪開催では東京、ソウルに後れをとったが、北京五輪から2年後の上海万博へと続く巨大イベントは、中国をさらなる繁栄に導くビクトリーロードとして青写真に描かれた。

 商売繁盛で縁起がよいとされる「8」が並ぶ08年8月8日午後8時8分に開会式の時刻を設定した。五輪開幕に合わせ、北京-天津間の高速鉄道を開業させ、地下鉄の新路線も開通した。五輪開催を都市改造の大プロジェクトとして利用したのは44年前の東京五輪を思い起こさせる。

 「国威発揚」の狙いを象徴したのが聖火リレー。五大陸の21都市を巡り、国内では世界最高峰のエベレスト登頂も加えた前代未聞の規模の聖火リレーは、中国の五輪開催にかける意気込みの大きさを表していた。

 ところが、この聖火リレーが思わぬ逆風を呼び込んだ。世界中の祝福を受けるはずの聖火は、チベット問題を巡る抗議の渦に包まれた。厳戒態勢で聖火を守ろうとしたことが、国際社会に「高慢で独善的な中国ナショナリズム」というイメージを植え付けた。

 五輪期間中、北京は世界中のマスコミが集結する情報発信地となる。中国政府は「躍進する中国」を世界にアピールする絶好の機会と期待した。だが、北京に集結した世界中のメディアは、中国側が「見せたい」と考えている姿だけを伝えるわけではない。むしろ中国政府が「見せたくない」現実を赤裸々に全世界に発信する。

 北京市内の深刻な大気汚染や拡大する貧富の格差。食の不安は各国選手の間にも広まった。開幕3カ月前には9万人近い死者・行方不明者を出した四川大地震が追い打ちをかけた。これまでになく開催を危ぶむ声が高まった大会となった。

 五輪開催都市とホスト国には素顔を全世界にさらけ出す覚悟と度量が求められる。少数民族対策などで、とかく閉鎖的と批判されてきた中国が今回の五輪開催を契機に「開かれた大国」に変わることができるだろうか。その一点に世界は注目している。胡錦濤主席が掲げる「和諧(調和)世界の実現」が今こそ試されているともいえよう。

 01年の米同時多発テロ以降に開催された冬、夏の五輪は常にテロの標的とされる危険にさらされてきた。北京五輪も例外ではない。

 ◇万全なテロ対策を

 開幕を4日後に控えた4日、新疆ウイグル自治区のカシュガルで武装警官16人が死亡、16人が負傷する事件が起きた。北京五輪も視野に入れたテロとの見方も強まっている。いかなるテロも容認することはできないのは当然だ。選手や観衆の安全に中国政府は万全の態勢で臨んでもらいたい。

 息が詰まるほどの厳重な警備に囲まれた中で平和の祭典が開かれる。悲しいことだが、その現実は受け入れざるを得まい。

 五輪の最大の魅力は、各競技にわたり世界最高峰の選手たちによる力と技と美の競演にある。参加する選手には、世界中を魅了し、感動を与える戦いを見せてもらいたい。

 日本からは26競技に過去最多の576人(選手339人、役員237人)が参加する。4年前のアテネ五輪で日本勢は東京五輪と並ぶ最多の16個の金メダルを獲得した。「前回並みの金メダルラッシュは難しい」という見方が大勢のようだが、それぞれの選手がベストを尽くすことがなによりも求められる。メダルの数で評価する考えには染まりたくないものだ。とりわけフレッシュな新星の出現を望みたい。

 スポーツを通じた国際交流の促進こそが「平和運動」としてスタートした五輪の最大の価値だ。北京五輪のスローガンである「同一個世界 同一個夢想(一つの世界、一つの夢)」が実感できることを願い、テレビにかじりつくとしよう。

毎日新聞 2008年8月7日 東京朝刊

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