「たまには東京においでよ。隅田川の花火の季節だよ」
先月下旬、都内に暮らす亡母の妹“東京のおばちゃん”を訪ねた。生後九カ月の娘を連れての旅は少々しんどいかと思ったが、気さくな性格で笑顔がチャーミングな叔母に会いたくなった。
住まいは浅草雷門に近い下町。学生だったころよく居候した。江戸時代の川開き花火に由来する隅田川花火大会を眺めることもできた。だが、今ではすっかり高層ビル群に囲まれている。社屋、マンション、有料老人ホームの建設ラッシュが今も続いている。
それでも町内を大切にする下町情緒は、随所に残っている。
地震対策がその一つ。「東京はいつ大地震がくるか分かんないからね。備えだけは、みんなでやっとかないと」と叔母。
隣近所の声掛け、お年寄りへの配慮は当たり前。叔母の地域は大地震を想定した緊急避難ルート表を張り紙にしていた。震災時、まず近くの公園、次に小学校、最後は上野公園―といった三段階の避難計画だ。年に何回かは地域を挙げての訓練を行うと聞いた。
中国・四川、そして東北地方で強い地震が続いた。首都圏も直下型地震に襲われた場合、避難民は七百万人に上るとされる。それだけに、日ごろの暮らしにも緊迫感が漂うが、一方で花火や祭りの伝統文化に誇りを持ち、地域が一体となる姿も東京の下町らしかった。
道すがら、お年寄りに話しかけ会話を弾ませる叔母を見ていると、まちと人を愛す下町のぬくもりが伝わるようで心が和んだ。
(文化家庭部・赤井康浩)