小さな写真集を見ている。「広島の声なき語りべたち―被爆樹木写真」(文芸社)である。写真家木村早苗さんの作品集だ。
三十点が掲載されている。ざっくりと割れた太い幹や、樹皮がはがれ傷だらけの木、さらには枯死した親木のわきで育つ二世の写真もある。ほとんどは原爆投下後、爆心地から三キロ以内で生き続ける。
木村さんは一九七四年生まれ。写真留学していたパリで、初めて被爆した広島の様子を伝える写真を目にした時、日本人として、日本に起きた現実に向かい合っていなかったことに気付き、必ず自分自身の目で広島を見つめようと心に誓ったと書いている。
被爆樹木といっても、声なき語りべたちからは、想像力を働かせなければ痛みや悲鳴は聞こえない。爆風や熱線に負けず、毎年新しい葉を茂らせ、花を咲かせる強靱(きょうじん)な生命力にも思いが至らないだろう。原爆の悲惨さと平和の大切さも伝わってこない。
核廃絶の願いを込めて各地に植えられた被爆樹木の二世、三世が引き抜かれたり折られたりした事件があった。最近も広島市内で原爆慰霊碑が倒されて破損した。人々の気持ちを踏みにじる行為だと気付かないのが悲しい。
きょう広島は、被爆から六十三年の「原爆の日」である。平和の大切さを学ぶために、過去と向き合おう。