憂楽帳

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憂楽帳:恥ずかしい

 20年前、ニュージーランドに1カ月ほど滞在して困ったのは、自動販売機のないことだった。深夜にたばこを切らし、街中をうろついてパトカーに乗せられたこともある。「どうして自販機がないんだ」。知り合いのニュージーランド人に聞くと、不思議そうな顔でいわれた。「そんなもの置いたら、売店の仕事が減っちゃうじゃないか」。職を失う人が出るというのだ。

 「ニュージーランドの人口は300万人。ヒツジは6000万頭いるけどね。こんな小さな国で失業者を出したら恥ずかしいだろ」。さして「政治的」とも思えない同じ20代から、この考え方を聞いた時の驚きは今も鮮明だ。その後、ニュージーランドは外国人労働者も受け入れ、現在の人口は420万人を超える。

 いま、日本では、仕事を求めて得られず、得たとしても不安定な「派遣」やフリーターに甘んじて苦悩する若者が少なくない。そうした現状を見聞きする時、あのニュージーランド人の声がよみがえる。こんな社会は「恥ずかしい」と私は思う。【高橋努】

毎日新聞 2008年8月5日 東京夕刊

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