牧太郎の大きな声では言えないが…

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牧太郎の大きな声では言えないが…:私はウソを申しません

 世に迷文句は数々あるが、戦後の政治家・池田勇人の「貧乏人は麦を食え!」を超えるインパクトのある言葉はなかったように思う。

 第3次吉田内閣で蔵相に抜てきされた池田さんは1950年12月7日の参議院予算委で、高騰を続ける生産者米価に関連して「所得に応じて、所得の少ない人は麦を多く食う、所得の多い人は米を食うというような、経済の原則にそった方へ持って行きたいというのが、私の念願であります」と答弁した。正確には「貧乏人……」というセリフは翌日の新聞がつけた“見出し”である。

 2年後、通産相の時にも「中小企業の5人や10人自殺してもやむを得ない」という趣旨の答弁をして、物価高に苦しむ日本人をあぜんとさせた。

 貧乏人、自殺……狂乱インフレが国民を痛めつける昨今は、半世紀前の、池田さんの時代によく似ている。貧乏人はガソリンが買えない。1日に90人が日本のどこかで自殺している(07年の自殺者は3万3093人)。でも、今の政治家は「狂乱インフレ」を認めようとはしない。

 内閣府が今年度の成長率見通しを実質ベースで2・0%から1・3%へ、名目ベースで2・1%を0・3%へ下方修正しているのに、大田弘子・前経済財政担当相が「アメリカの経済が持ち直すにつれ、日本経済も速やかに回復する」(7月14日)と発言したのには「ウソも休み休みにしろ!」と怒りまで感じた。(失礼だが)あんな可愛い顔をした女性大臣が平気でウソをつく。即座に内閣改造してくれ!と思った。

 剣が峰の改造を福田さんは自ら「安心実現内閣」と命名した。名文句? 迷文句?

 首相になった池田さんは寛容と忍耐。60年の総選挙ではテレビCMで「私はウソを申しません」と言い放った。「本音の池田」のイメージを逆手に取ったネーミング。(浮気がばれ、夫人に水風呂に顔を突っ込まれた時「私はウソを申しません」と言ったのが始まりという説もあるが)名文句だった。池田さんの「所得倍増計画」は(評価は分かれるとは思うが)分かりやすいビジョンだった。

 福田さんに申し上げる。「安心実現」の大前提はウソをつかないことだ。狂乱インフレを認め、処方せんを提示するのが、改造内閣の緊急にして最大の使命だと思う。貧乏人をなくすのが、池田さんにつながる保守本流の使命ではないのか。(専門編集委員)

毎日新聞 2008年8月5日 東京夕刊

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