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映画インタビュー:「闇の子供たち」阪本順治監督に聞く 「日本人にはね返ってくる映画にしたかった」

阪本順治監督
阪本順治監督

 タイにおける幼児の人身売買の様子を克明につづった、梁石日(ヤン・ソギル)さんの同名小説の映画化「闇の子供たち」が8月2日から東京・渋谷シネマライズを皮切りに全国で順次公開される。メガホンをとったのは「顔」や「KT」「亡国のイージス」などで知られる阪本順治監督。「幼児の人身売買」という重いテーマとどう向き合い、脚本を書き、映像化していったのか。阪本監督に話を聞いた。(文・写真/りんたいこ)

 小説「闇の子供たち」は、タイを舞台に人身売買の餌食になる子供たちの悲惨な状況を容赦なく暴き、子供たちを救おうと奔走するNGO職員と彼らをサポートする日本人新聞記者の姿を描いている。映画化にあたってNGO職員の音羽役に宮崎あおいさんが、新聞記者の南部役に江口洋介さんが、南部に協力するフリーカメラマンの与田役に妻夫木聡さんがキャスティングされている。

 ◇虐待する側の醜さを描く

 --原作は、タイにおける幼児の売春の様子が克明に描写されています。映画化が決まり、原作を読みながら何を思いましたか。

今回の現場は「覚悟のうえで挑んだけど、それでも身体がいうことをきかなくなった」と漏らしていた阪本監督
今回の現場は「覚悟のうえで挑んだけど、それでも身体がいうことをきかなくなった」と漏らしていた阪本監督

 阪本順治監督:小説だから描写できること、というものがあるわけですが、それを映像として省くのか、それともあえて挑戦するのか。そうしたことを考えながら読み進める中で、幼児の人身売買は現実にあり、日本人も加害者としてそれに関与している。ならばその醜さをはっきりと見せるべきだと考えるようになりました。その時に、虐待の様子は逃げないで描いたほうがいい、原作の描写をできるだけ映像に起こすべきだと決心がつきました。

 --そこからはスムーズに?

 阪本監督:それからも、タイの映画人にこの小説を映画にすることへの理解をどうしたら得られるのか、子役にはどう説明するのかなど、いろいろと悩みました。ただ、この仕事を引き受けた以上は、この映画の存在意義は必ずあるはずだと、そこだけは覚悟を決めて取りかかりました。

 ◇臓器売買問題にも言及

 --小説や映画にあるような幼児の人身売買が、実際にされているとは、にわかには信じられません。

映画の1場面。(C)2008 映画「闇の子供たち」製作委員会
映画の1場面。(C)2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

 阪本監督:小説の中にある事例は、取材をすると、ほとんどありました。ただ、僕自身、タイで取材をし直すと、(原作者の梁さんが取材をした)当時とは現地の様子が変わっている部分があり、そういうところは変えています。たとえば、今は子供たちを鎖でつながないとか、子供たちを清潔にしておくとか。ただ、映画で描いていることのすべてが、タイで本当にあった事例ではないんです。取材の途中で、それ以上突っ込めないということもありますから。ですから、臓器売買のくだりは、極端な仮説を立てて描いています。

 --仮説を立ててまでも、臓器売買の問題に言及したのはなぜでしょう。

 阪本監督:子供の臓器移植に関しては、日本で今も苦しんでいる親御さんがたくさんいる。子供が海外で臓器移植手術を受けるとなると、カンパを集めて、ある種の美談として報道されますが、話を伺った心臓外科医の先生がおっしゃるには、その後の物語というのがあるんだそうです。

 --その後の物語とは?

 阪本監督:カンパをもらった御家族というのは、人々の善意で自分の子供が助かったことを一生抱えて、身を小さくして生きていかなければならない。それもこれも、日本の(遺言法や臓器移植法などの)法整備がしっかりしていないからです。子供の臓器移植を自国で解決できない先進国なんて他にはないですよ。解決できないから、海外に行って移植ネットワークに登録し、外国の子供の臓器をもらう。移植ネットワークの関係者や医師たちは、さまざまな運動を展開していますが、マスコミは、いくら(お金が)集まったとか、そういう話を伝えるだけで、肝心の問題点は見えてこない。こういう話を聞いた時に、親御さんに、罪悪感を持ちながらも(違法な)臓器移植を発想させてしまう原因はどこにあるのか、そういうことをきちんと映画の中で見せておきたいと思ったんです。

映画の1場面。(C)2008 映画「闇の子供たち」製作委員会
映画の1場面。(C)2008 映画「闇の子供たち」製作委員会

 --映画のラストも原作とは違います。

 阪本監督:たとえば、よその国のマフィアが関わっている、かわいそうな話という落としどころだったら、日本人の監督が何をもってそれをやりたかったのか、と突きつけられた時に僕自身が答えられない。だから、日本人を(子供たちを)救出する側ではなく加害者として描くことで、われわれ日本人に“はね返ってくる”映画にしたかった。そうでないと、自分にはこの映画は撮れないと思ったんです。

 ◇宮崎あおいの役作りに感心

 --役者さんたちそれぞれの役作りで印象に残ったことは?

 阪本監督:(宮崎)あおいちゃんは新米のNGO職員の役なんですが、すごいなと思ったのは、初日からエキストラの子供たちの中にすーっと入っていって、一緒に遊んでいたことです。それは、彼女にとっての役作りというより、「子供の人権に興味があって、この映画に参加しました」ときっぱり言った、彼女自身の信念から出た行為でもある。妻夫木くんには、撮影の合間を縫って、日本人の観光客がめったに行かないダークな場所を歩いてもらいました。

 --江口さんは、今回の仕事はかなり躊躇(ちゅうちょ)されたと聞いています。

 阪本監督:そりゃあ、躊躇するでしょう。でも、結局受けることにしたのは、彼自身が映画の意義を理解し、また(役者として)変わりたいと思ったからでしょう。

 --タイの子供たちの演技にも目を見張りました。

 阪本監督:エキストラの子も含め、みんな役者ですよ。大人を見返すときの眼とか表情とか、演出の理解度は抜群です。子供だと侮ってはいけない。だからこちらも言葉を選びながら、なぜこうしたことをあなたにやっていただかなければならないか、という説明を中心にしていきました。

 --この映画を撮って、監督ご自身が変わったことは?

 阪本監督:日本にいれば、日本人がやっていること、それはいいことも悪いことも含めてですが、ある程度、テレビのニュースや新聞でわかります。では、海外で日本人は何をしているのかとなると、そういうことに僕自身、あまり目を向けてこなかった。けれども今回、初めて興味を持って挑んだ。そういう意味でこの作品は、僕の目を海外に向けさせてくれた第1弾の映画になります。第2弾、第3弾と続けて撮る、ということにはなりませんが、今回のような世界における現代の日本人のあり方を描く作品は、これからも機会があればやっていきたいと思います。

 <阪本順治監督のプロフィル>

 1958年大阪府生まれ。監督デビュー作「どついたるねん」(89年)がブルーリボン賞最優秀作品賞ほか、その年の映画賞を総なめにし一躍その名を知らしめる。00年には「顔」が日本アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の賞を受け、映画監督としての地位を確立する。05年には福井晴敏さんのベストセラー小説「亡国のイージス」を映画化。海洋アクションにも挑戦し、話題を呼んだ。その他の作品に「KT」(02年)、「魂萌え!」(07年)などがある。また、藤原竜也主演のクライム・アクション「カメレオン」が7月5日に公開された。

2008年8月1日

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