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社説2 核拡散への監視を緩めるな(8/6)

 ヒロシマへの原爆投下から63回目の夏を迎えた。ヒロシマ、ナガサキの悲劇を二度と繰り返さぬよう、人類は核兵器廃絶への道を進まなければならないのに、核の脅威はなお世界に広がり続けている。

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が6月に発表した2008年版年鑑によると、現存する核弾頭は世界の8カ国で合計2万5000個を上回る。このうち1万個以上がミサイルなどに搭載され、実際に使用可能な状態だ。即時発射態勢にある核弾頭は数千個に及ぶ。

 核兵器の拡散を防ぐ国際的枠組みの柱は、1970年に発効した核拡散防止条約(NPT)だ。核兵器の保有を米ロ英仏中の5カ国に限定し、他国の保有を禁じている。

 NPTで核兵器の削減義務を負う5カ国が依然、核戦力を国防戦略の軸に据えているのも問題だが、SIPRIが「核保有国」とするインド、パキスタン、イスラエルはいずれも非加盟だ。核実験を強行して「核保有国」の立場を誇示する北朝鮮もNPT脱退を宣言したままだ。

 NPT体制のタガは緩むばかりなのに、米国はインドと原子力協定を締結、原子力燃料や技術を輸出しようとしている。国際原子力機関(IAEA)が承認した保障措置協定でインドの民生用原子炉が査察対象になっても、軍事施設は含まれない。事実上の核保有国と認め、特別扱いする動きに懸念せざるを得ない。

 米国は北朝鮮に対しても、シリアへの核協力疑惑を半ば不問に付したまま、核施設の無能力化など6カ国協議を通じた目先の成果を急いでいる。米政権はテロ支援国家の指定解除にまで踏み切ろうとしている。

 現状を是認して核拡散を食い止める思惑だろうが、適用除外を認めればNPT体制は根幹から揺らぐ。現に北朝鮮はインドの例を研究し、核不拡散の見返りに最低限の核兵器保有を米国に求めているという。これを認めれば、核の誘惑はイランなど世界に広がるばかりだ。

 核不拡散の枠組みづくりは世界共通の課題だ。唯一の被爆国として日本の責務も問われる。日本の安全保障に密接に絡む北朝鮮の核問題を厳しく監視し、譲歩を重ねる米国に歯止めをかける役割はそのひとつだ。

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