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社説1 途上国での贈賄は常識でなく犯罪だ(8/6)

 先進国では処罰される行為が途上国では「誰でもやっている」と黙認される。そんなことがあってはならないのは当然である。

 政府開発援助(ODA)事業をめぐり、ベトナム・ホーチミン市幹部にわいろを渡したとして、大手コンサルタント「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)の前社長ら4人が不正競争防止法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕された。ODA事業に関連して外国公務員への贈賄が摘発されるのは初めてである。

 途上国では先進国の企業が激しい競争を繰り広げている。わいろ攻勢は商慣習として常識だともいわれてきた。今回の摘発を、その常識を改める契機にしなければならない。

 外国での贈賄に対し厳しい姿勢を取ることは、経済がグローバル化する中で大きな流れだ。経済協力開発機構(OECD)加盟国などが結んだ外国公務員贈賄防止条約は1999年に発効している。日本も条約を批准し、98年に不正競争防止法を改正して対応した。

 しかし、日本での摘発は昨年、九電工社員がフィリピン政府高官を日本に招いた際にゴルフバッグなどを贈って略式起訴され、罰金刑を受けた1件だけしかなかった。過去に外国での贈賄疑惑が浮かんだこともあったが、立件は見送られている。

 この間、米国では100件あまりが摘発されている。OECDが日本は対策が不十分だと異例の是正勧告を出したのもうなずける。

 日本では贈収賄事件は「汚職」といわれ、職を汚した収賄側の公務員の犯罪という面が強調されてきた。しかも密室で起こることがほとんどだ。そのため厳密な捜査が求められ、贈賄、収賄双方から十分な証拠が得られないと立件できなかった。

 しかし、条約は企業の公正な競争を妨げる行為を排除するという考え方に力点を置いている。不正競争防止法も、贈賄側が不正な意図を持ってわいろを提供することを禁じた法律だ。条約、法の趣旨に沿った積極的な摘発姿勢が日本にも求められるのは当然だろう。もちろん、贈賄が途上国の指導層の腐敗に手を貸していることも見逃せない。

 事件はODAが舞台であり、税金がわいろに化けたという構図だ。その意味でも許されるものではない。

 日本のODAをめぐっては、国益のため日本企業が受注することが当たり前という空気が官民ともにあったとも指摘されている。そこに問題はなかったのか。捜査はこの点についても明らかにしてほしい。

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