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社説:原爆の日 世界は核廃絶の頂を目指せ

 広島はきょう6日、長崎は9日に、「原爆の日」を迎える。原爆投下から63年。歳月は流れ、被爆者の高齢化が進む。その実体験を伝える時間は限られてゆくのに、核の脅威はむしろ高まっている。今こそ人類を滅ぼしかねない核兵器の廃絶の意思を世界で共有し、行動に移さねばならない。

 核兵器拡散の危険は膨らんでいる。北朝鮮、インド、パキスタン、イスラエルなど核兵器保有を明言したり持つとされる国が増え、イランの核開発が憂慮される半面、テロリストが核兵器を手にする恐れもある。

 米国務長官だったキッシンジャー、シュルツ両氏らが昨年と今年の1月の2回にわたり核兵器廃絶を提言したのは、その危機の表れだ。世界の核弾頭の9割以上を占める米露に核攻撃計画の放棄などを求めている。冷戦時代、歴代大統領のもとで核抑止戦略を担ってきただけに、現実味を帯びて国際社会に賛同が広がりつつある。先の北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の首脳宣言も、すべての核保有国に核軍縮を呼びかけた。

 今年の広島の平和宣言は、被爆体験の悲劇と苦悩を経て「核兵器は廃絶されることにだけ意味がある」との真理を見いだし、今日の流れを導いたと指摘する。さらに核拡散防止条約(NPT)の批准国が190カ国に上る現状などを踏まえ、今秋に選ばれる米新大統領が多数派の声に耳を傾けるよう期待を寄せる。

 「戦争に勝ちも負けもない。あるのは滅びだけ」。被爆しながらも被災者の救護に努めた故・永井隆博士の生誕100年の今年、その言葉が人類への警告として長崎の平和宣言文に盛り込まれるという。

 2発の原爆は生き残った人たちの心身を今もむしばみ続ける。だが、被爆者24万人のうち、原爆症認定者は約1%に過ぎない。

 被爆者が国に原爆症の認定を求めた集団訴訟は各地で勝訴している。国は4月から条件を緩めた新認定基準の運用を始めたが、仙台、大阪両高裁は翌月、その基準から外れた原告も原爆症と認めた。新たな基準の不備が早くも露呈した。

 被爆者の平均年齢は75歳を超える。福田康夫首相は被爆者の実態に沿った幅広い救済に向け政治決断すべきだ。加えて在外被爆者に自らすすんで手を差し伸べるのが日本の責務だろう。

 世界2300以上の都市でつくる平和市長会議は今年のNPT再検討会議の準備会合で2020年までの核廃絶の道筋を示した「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を発表し、各国に協調を促した。

 国際社会は、非人道兵器の対人地雷やクラスター爆弾の禁止を実現した。その究極にある核兵器の廃絶という「頂」を見据えて、日本が被爆国として「核兵器のない世界」の先駆けとならねばならない。

毎日新聞 2008年8月6日 東京朝刊

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