今年も終戦の8月がやってきました。毎年、メディアは終戦関連の特集記事を組み、日本国民は平和への想いを確認します。しかし、最近気になるのは、平和主義者とは名ばかりの、無関心派が増えていることです。 本当に平和を希求するのなら、現実的な平和運動を提言してこそ意味があります。国際紛争を解説した記事すら読みたくないと言う日本人は多いのかも知れません。しかし、戦争の実態を知ろうとせずに、「戦争を避けられるのか。平和を守れるのか」と私は強く危惧しています。 私が学生だった時、級友に「戦争には絶対反対」だと言う者がいました。「戦争は間違っている」と確信に満ちた口調で言う彼でしたが、私がちょっと戦争について説明しただけで、すぐに「勝てる戦争ならやってもいい」と意見を翻しました。別の者は「戦争に関する事柄を知ると、自分が戦争を好きになってしまうのではないかと心配だ」という不安を口にしました。 私は、こんな人たちには、そもそも平和を守る資質がないのだと思うのです。彼らは、元々、戦争が好きで、少し刺激を与えてやると、簡単に軍国主義者に変身してしまう性質を隠し持っているのです。 真に戦争を嫌う者は、戦争を直視しようとするものです。そうしなければ戦争を防ぐことはできないと知っているからです。具体的に調査を行い、問題点を洗い出そうとします。クラスター爆弾禁止条約に関して、日本政府は当初、合意に反対していましたが、このことが国民的な関心を呼ぶことはありませんでした。 この条約について考える時、クラスター爆弾という兵器の特質、運用の実態について知ることが不可欠です。しかし、戦争について知るのも嫌だという人たちにとっては、考えたくもないことでしょう。これでは、平和への試みに参加することはできません。 この問題を、政界きっての軍事通として知られる石破茂氏について考えてみます。先週の内閣改造で、留任を要請されたにも関わらず、石破氏は「イージス艦事故の責任を取る」として、これを堅く固辞しました。私は石破氏は戦争について、とんでもない勘違いをしていると考えます。おそらく、石破氏の考えは「国民を守る自衛隊が国民の命を奪ったのだから、担当大臣が辞めるのは当然」というところにあるのでしょう。 しかし、これは戦争の実態を無視した感傷論に過ぎません。南太平洋の島々、沖縄において、旧日本軍は軍民一体の戦争を行い、多数の犠牲者を出しました。朝鮮戦争において、韓国軍が韓国国民を殺した事例はいくつもあります。米軍はアフガニスタンでクラスター爆弾を多用し、使用を中止するまでの間に、この国の人びとに多くの犠牲者を出しました。米軍は原子爆弾の起爆実験で、米軍の隊員多数を被爆させ、冷戦中には化学剤にも被爆させる実験を行いました。 国防が個々の国民を守るという見解は幻想に過ぎません。国防は一部の国民に犠牲を強いて、全体を守るという全体主義的な運動です。防衛省は「国民を守る」ことを協調します。これはその立場上、当然の主張です。もちろん、自衛隊は国民に被害を及ぼさないように最大限の配慮をするでしょう。しかし、国民の側は、これを額面どおりに受け取るべきではありません。日本国内で防衛戦を展開することの意味を間違えてはいけません。どう注意したところで、コラテラルダメージ(攻撃の意図とは別に起こる付帯的な被害のこと)は避けられないものだからです。国民の代表である防衛大臣が認識違いをしているのなら、国民がそれを彼に教えてあげなければなりません。 こうした勘違いは、有事の際に有害な問題を引き起こすという、別の現実的な危険もあります。「自衛隊が国民を守る」という宣伝が繰り返されると、国民は「有事の際には自衛隊に守ってもらう」と考えるようになります。また、国民は自然災害の際に、自衛隊が災害派遣で出動し、被災者を助ける光景を見慣れています。こうしたことから、有事の際に自衛隊がいる方向に向けて逃げていく国民が生まれる恐れがあるのです。 ジュネーブ条約には、民間人の被害を最小限にするために、軍隊と民間人をできるだけ分離させるという規定があります。自衛隊は敵にとっては攻撃目標です。その近くにいれば巻き添えになる恐れがあります。だから国際条約では、軍民分離の原則を掲げているのです。しかし、防衛省が「有事の際には、自衛隊からできるだけ離れるようにしてください」という注意事項を広く宣伝したことはありません。 戦争を考える上では、こうした細かい事実について知らないと、正しい判断はできません。だから、少しでも多くの人に関心を持ってもらい、正しい知識を持つ国民を増やさなければならないのです。まして、戦争がもたらす衝撃は甚大で、その人の人生を一変させるほどの力を持っています。単に、机上の理論に詳しいだけでなく、そうした極限的な状況でも判断を誤らない人が必要なのです。 残念なことに、軍事に関する普及本はあまりありません。日本には、様々な軍事に関するメディアが存在します。武器を中心に解説する月刊誌がその中心です。こうした軍事メディアは、戦争を考える上ではほとんど役に立ちません。情報が細かすぎて、利用しにくいのです。これらは軍装品や武器に対する関心をかきたてるものではあっても、戦争全般を網羅しているわけではありません。 もっと率直に言えば、軍事メディアの多くは「軍事オタク」御用達でしかないのです。定期刊行誌としては、戦争のあらゆる面を網羅する本は存在せず、多くは右と左のイデオロギーに基づいていたり、前述のような軍事マニアのために出版されるものばかりです。このため戦争を学ぶためには、様々な分野の本を読み渡して、知識を組み立てていくという苦労が必要です。 戦争体験を持つ人たちは、まもなく本当にいなくなります。その時に、あなたは自信を持って平和を守れるでしょうか。あなたは簡単に変節する、隠れた軍国主義者になってはいませんか。今月、ぜひ、こうしたことについて考えてみてください。 |
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