お盆が近づくと思い出すのが山田洋次監督の「男はつらいよ」のシリーズだ。多くの人が古里に帰省する盆と正月に公開され、季節の風物詩のような映画だった。
四日は主演の“寅さん”でおなじみの渥美清さんの命日だった。今年は十三回忌に当たり、東京都葛飾区の「葛飾柴又寅さん記念館」では二日、山田監督やファンが参加して献花式が行われた。シリーズ第一作が公開されて四十年目にもなるため、今後記念のイベントや上映会が全国で予定されている。
岡山県との縁は深い。全四十八作のうち第八作と第三十二作は高梁市、最後の第四十八作は津山市で撮影された。特に高梁市は、寅さんの妹・さくらの夫の実家があるという特別な設定で、重要な舞台となった。
明るい笑いとほのぼのとした人情が作品の持ち味だが、日本各地をロケした風景の美しさも秀逸だった。高梁市は山あいに抱かれた伝統的なたたずまいが、寅さんの世界にマッチしたのだろう。
地方の魅力を掘り起こし、全国に発信してくれた。今でこそ各地のフィルムコミッションによるロケ誘致活動が盛んだが、寅さん映画はそのはしりといえる。
渥美さん亡き後も、寅さんは作品の中で生き続けている。映画を見ると、懐かしさがこみ上げてくる。どこか古里への思いに似ている。