米国とインドの原子力協力協定が発効に向けて前進しそうだ。国際原子力機関(IAEA)理事会が、前提条件の一つである、インドとIAEA間の保障措置(査察)協定案を全会一致で承認したからだ。
インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、独自の核開発を続け、核兵器保有国となった。査察協定の承認は、国際社会がインドの核保有を追認したことを意味する。NPTを軸とした核不拡散体制を骨抜きにしかねない事態である。
米印原子力協力協定が締結されたのは二〇〇七年七月だ。人口十億人を抱え、経済発展が著しいインドは、深刻なエネルギー不足に直面している。電力需要の急増を原発で賄いたいとの要請に米国が応じた。米国には巨大な原子力市場へ参入できるメリットに加え、中国をけん制したい思惑もあった。
IAEAのエルバラダイ事務局長は、今回の査察協定承認を「核兵器のない世界を目指す努力にとって良いことだ」と評価した。理由は、核物質や核施設などIAEAの査察を受ける対象が増えるからだ。それによって、核兵器に転用可能な物質や技術がインドから他国へ広がるのを防ぐ効果があるという。
インドはこれまで、六つの原子炉をIAEAの査察・管理下に置いてきた。今回の協定で、十四の民生用原子炉について一四年までに段階的に査察対象とすることになる。
とはいえ、インドは一九七四年と九八年に核実験を強行し、NPTや核実験禁止条約にも背を向けてきた。米印協定は、NPTに加盟して核兵器を放棄することでしか受けられない核技術の提供を、「特例」としてインドに対して認めるものだ。
しかも、インドには兵器用核分裂物質の生産停止や核実験停止の確約など、核軍備管理に必要な具体的な義務は何ら課せられてない。この特例を認めれば、NPT非加盟の核保有国パキスタンも同様の要求をしてくるのではないか。
米印協定発効までにはまだ関門がある。焦点は原子力供給国グループの全会一致による承認だ。核関連の資機材を供給する能力のある日本など四十五カ国による協議で、輸出規制対象から「例外」としてインドを除外することが決まれば、残る手続きは米議会の承認だけとなる。
唯一の被爆国として核廃絶を訴えてきた日本は、核不拡散体制を揺るがすインドの核保有に断固反対の姿勢を貫くべきだ。NPTへの加盟を積極的に働き掛けることも必要だろう。
国土交通省は、二〇〇八年版「水資源白書」を発表した。地球温暖化への懸念や、豊かな水環境への関心の高まりなどを受け、これまで優先してきた水量の安定確保から水資源を有効に活用していく総合的な水資源マネジメントに転換する必要性を強調している。
国内の水事情について白書は需給の乖離(かいり)が縮小し、施設整備による量的な充足を図る時代は終わりつつあるという。五十年後の水需要は生活用水が人口減少や節水型機器の普及で減少し、農業用水が横ばい傾向などから現状の約九割に減るとの試算を示した。一方、気候変動で、地域によって渇水の危険性が高まるとも指摘する。
水資源をめぐっては地球温暖化による異常気象や生態系への影響、水質汚染、配水管など施設の老朽化も急増しそうだ。さらに山間部の過疎化や高齢化で水源維持も困難な状況にある。
こうした課題に対応するため白書は水系ごとに行政や企業、農林水産業関係者らによる協議会の設置を提言した。水量と水質、地表水と地下水、平常時と緊急時を一体的にとらえて取り組みを進め、住民の意見も反映するという。
水は人間の生活や産業などに欠かせない。それだけに課題は多岐にわたり、互いに絡み合っている。一面だけ見ていたのではコントロールし切れないだろう。関係者が幅広い角度から水資源を見詰めて話し合って情報を共有し、調整を図りながら取り組んでいくことは重要だ。
利害が絡むだけに困難も予想される。それでも、水系ごとの協議会設置に踏み出すべきであろう。豊かな水の恵みを享受できるよう、縦割りの壁や思惑を超えて連携を強め、水資源の有効活用を進めていかなければならない。
(2008年8月5日掲載)