 |
−肝機能検査にはどんなものがあるか- |
| ■GOTとGPTが増加する場合 |
|
採血によって簡単にできる検査に、一般肝機能検査があります(表1参照)。その代表はGOT(AST)、GPT(ALT)です。GOTとGPT、とくにGPTは肝臓に多く含まれ、その値は肝臓の細胞の壊れ方が大きいほど高くなります。正常値は測り方や施設によって多少の差がありますが、ともにおおよそ40単位以下とされています。GPTが500単位以上と、激しく上昇した場合は、急性肝炎、薬による肝炎(薬剤性肝炎)、劇症肝炎などが考えられます。100〜500単位の中等度の上昇の場合には、活動性の強い慢性肝炎、アルコール性肝炎、胆汁のうっ滞などが考えられ、100単位以下の軽度の上昇の場合には、活動性の弱い慢性肝炎、肝硬変、脂肪肝などが考えられます。急性肝炎になると、ボクシングのアッパーカットのように、GPTが派手に急激に増加します。しかし多くの場合、回復とともに急降下します。一方慢性肝炎や肝硬変などではGPTの増加はそれほどではありませんが、ボディブローのようにじわじわと肝臓に効いてきます。
表1 主な肝機能検査と正常値(基準値)
| 総たんぱく |
(g/dl) |
6.4〜8.1 |
| アルブミン |
(g/dl) |
3.8〜5.3 |
| A/G比 |
|
1.1〜2.0 |
| 総ビリルビン |
(mg/dl) |
0.2〜1.2 |
| 直接ビリルビン |
(mg/dl) |
0〜0.4 |
| GOT(AST) |
(lU/l) |
8〜38 |
| GPT(ALT) |
(lU/l) |
4〜43 |
| ALP |
(lU/l) |
103〜335 |
| LDH |
(lU/l) |
100〜230 |
| γ-GTP |
(lU/l) |
16〜73 |
| コリンエステラーゼ |
(lU/l) |
100〜230 |
| 胆汁酸 |
(μmol/l) |
0〜10 |
| ZTT |
(KU) |
4.0〜12.0 |
| TTT |
(Maclagan) |
0〜5.0 |
| アンモニア |
(μg/dl) |
30〜70 |
| プロトロンビン時間 |
(%) |
85〜120 |
| ヘパプラスチンテスト |
(%)
|
70〜130 |
| ICG-R15 |
(%) |
10以下 |
| 血小板数 |
|
120〜350× |
|
| ■ビリルビンやALPが増加する場合 |
|
黄疸があるときはビリルビンが増加します。ビリルビンの正常値は血液1dl当り1.2mg以下です。白目の部分が黄色いことを他人に指摘されて黄疸に気づくことが多いのですが、その場合にはビリルビンが2mgを超えているといっていいでしょう。黄疸が出る前に、尿の色が濃くなる場合がほとんどです。黄疸がある場合、アルカリフォスファターゼ(ALP)の値も増加します。これは胆汁の流れがよどんだときに増加する酵素です。黄疸がないのにALPのみの増加が見られ、早期の胆管がんが発見されることもあります。またγ-GTPという酵素も、アルコールや薬による肝障害、胆汁の流れが悪いときに増加します。
|
| ■慢性肝炎の進行を示すアルブミン、A/G比と血小板数 |
|
血清アルブミンは肝臓でつくられる大切なたんぱく質です。血清たんぱくには、このアルブミンとグロブリンがあります。肝臓が正常に機能しているとき、アルブミンは血清たんぱくの70%を占めるので、血液1dl当り4〜6gあります。肝硬変になるとアルブミン値は低下します。また、アルブミンとグロブリンの比、つまりA/G比は、肝硬変が重症になるほど低下します。
ところで、慢性肝炎が進行すると、肝臓がしだいに硬くなり、ついには肝硬変にいたります。この程度では肝臓の細胞が壊死と再生をくり返し、徐々に繊維におきかえられていきます。そして肝硬変になると、繊維が網の目のように肝臓全体の細胞を取り囲んでしまいます。肝硬変の肝臓の表面が凸凹に見えるのはそのためです。
血小板には血を固める力があることをご存知の方も多いと思います。最近、肝臓の中に繊維が増えるとともに、この血小板の数が減っていくとの報告があります。逆にいえば、血小板数を測定することで、肝臓の硬さが推定できるということです。また、採血によって肝臓の繊維の量を測れるものとして、W型コラーゲンやヒアルロン酸があります。両者は、健康人→急性肝炎・慢性肝炎で肝機能が比較的落ち着いている状態→慢性肝炎で肝機能が変動している状態→肝硬変→肝臓がんの順に高くなるといわれています
。
|
| ■肝機能のさらにくわしい検査 |
肝機能のさらにくわしい検査には、プロトロンビン時間、ヘパプラスチンテストなどがあります。これらは血液の固まりやすさ(凝固因子)と関係する検査法です。凝固因子は肝臓でつくられるので、肝機能の敏感な検査法として役立ちます。また、ICG(インドシアニン・グリーン)という検査法があります。ICGはグリーンの色素で、肝臓だけで代謝される性質をもっています。検査ではICGを注射して15分後に採血し、血液中に残された色素濃度を測定します(ICG-R15)。肝機能が悪化するほど血液中に残るICGの量が増えていきます。ちなみに、正常の肝臓では15分で90%以上が代謝され、血液中に残るのは10%以下です。ICGは非常に鋭敏な検査法で、よく行われます。
以上たくさんの検査法を紹介してきましたが、いずれもひとつだけでは肝機能のすべてを測ることはできません。実際には、いくつかの検査値のどれを判断基準にするべきか、迷う場合が少なくありません。インターフェロン注射や手術など体に負担のかかる治療法を選ぶときには、これら検査の結果を総合的に判断する必要があります。しかし、検査はあくまでも検査であり、熟練した医者の目(視診)、手(打診、触診)による直感もすてがたいものです。 |
| ■肝臓の組織を顕微鏡で調べる |
ときには肝臓の組織を顕微鏡で調べることもあります。この場合、肝臓に針を刺して組織の一部をとり、繊維化(硬さ)の程度、炎症の程度を顕微鏡で調べます(針生検)。C型慢性肝炎である種のインターフェロンを注射する場合、肝炎が活動性かどうかを判定するのに針生検が必要です。GOT,GPT値と顕微鏡で見た炎症の程度は必ずしも一致しません。また、肝臓の超音波検査でがんかどうかはっきりしない影が見つかったとき、その診断のために影の部分の組織に針生検をします。
針生検はふつう、超音波(エコー)検査で肝臓を見ながら右の助骨の間から中空の針を刺します。肝臓に針が入ったら、針の中に陰圧をかけて肝臓の組織を吸い込みます。とった組織は顕微鏡で検査します。針生検は麻酔剤を注射してから行うので、痛みはありません。腹腔鏡で肝臓の表面を観察しながら、針生検をすることもあります。超音波検査との併用により、針生検は以前に比べて格段に安全になりました。しかし、まれに針を抜いたあとに出血があるので、検査後はしばらく安静にする必要があります。なお、慢性肝炎や肝硬変では、血液を固める作用をもつ血小板数が低下していることがあります。針生検は肝臓に針を刺す検査なので、血小板数が7万以下(正常値は12万〜35万)のときは実施しないほうが安全です。 |