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バイオ研究者見習い生活 with IT このページをアンテナに追加 RSSフィード

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Aug 04(Mon), 2008

Hash2008-08-04

生物オタが非オタの彼女に分子生物学の世界を軽く紹介するのための10タンパク


まあ、どのくらいの数の生物オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、


「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、

 その上で全く知らない生物世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」


ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、生物のことを紹介するために見せるべき10タンパク質を選んでみたいのだけれど。

(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女バイオ布教するのではなく、相互のコミュニケーションの入口として)


あくまで「入口」なので、機能的に過大な負担を伴うリボソーム、シャペロンタンパクは避けたい。できればシンプルなペプチド様タンパク、大きくても100 kDaにとどめたい。

あと、いくら生物学的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。

生物好きがパスツールの時代は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。

そういう感じ。



彼女の設定は

という条件で。

まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。



インスリン


まあ、いきなりここかよとも思うけれど、「インスリン以前」を濃縮しきっていて、「インスリン以後」を決定づけたという点では外せないんだよなあ。長さも51残基だし。

ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。

この情報過多なタンパクについて、どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報彼女に伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」試験としてはいいタスクだろうと思う。



アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ


アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうなタンパク質(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのものという意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには一番よさそうなタンパクなんじゃないのかな。

生物オタとしては、エタノール代謝で生じるアセトアルデヒドを酢酸に分解する速度が酒の強さなんだよーという話題は“飲み会の鉄板ネタ”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。



アミロイドベータ


ある種のSFバイオオタが持ってる生命への憧憬と、フォールディング・オタ的なシンプルかつ美しい構造へのこだわりを彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにもアミロイド的な

  • 「集積するベータシート」を体現するβシート部分のLeu, Val, Ala, Ileといった疎水性残基
  • 「工学的な応用」を体現するループ部分のHis, Asp, Gluといった荷電残基

の二点をはじめとして、オタ好きのする残基を各所にちりばめているのが、紹介してみたい理由。



コラーゲン

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たぶんこれを見た彼女は「化粧品だよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。

こんな特殊な構造タンパク質*1身体全体のタンパク質の30%を閉めていること、化粧品として肌に塗ることで保湿効果が、というなんとなく科学っぽい宣伝で大人気になったこと、アメリカなら訴訟問題になって、それが日本報道されてもおかしくはなさそうなのに、

日本人って科学言葉で語られると弱いよね、などと非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。



GFP

f:id:Hash:20080805103918p:image:w100

「やっぱり科学は目で見てわからなきゃだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「DNA抽出実験」でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、このタンパクにかける生化学者の思いが好きだから。

断腸の思いで光りに光ってそれでも最大蛍光波長508 nm、っていう波長が、どうしても俺の心をつかんでしまうのは、その「目立つ」ということへの諦めきれなさがいかにもクラゲ*2だなあと思えてしまうから。

GFPの青だか黄色だかわからない微妙な発光を俺自身は冗長とは思わないし、もう削れないだろうとは思うけれど、一方でこれがRFPやYFPだったらきっちり色の三原色にしてしまうだろうとも思う。

なのに、各所に頭下げて迷惑かけて緑色で光ってしまう、というあたり、どうしても「自分の物語を形作ってきたβシートが捨てられないタンパク質」としては、たとえGFPがそういうキャラでなかったとしても、親近感を禁じ得ない。とりあえずアウトプットを見るときはGFPという、タンパク自体への研究者依存度の高さと合わせて、そんなことを彼女に話してみたい。



ヘモグロビン


今の若年層でヘモグロビン構造研究する人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。

X線結晶構造解析よりも前の段階で、構造生物学哲学とか一分子を執着的に研究する技法とかはこのタンパクで頂点に達していたとも言えて、こういうクオリティタンパク質コンピュータもない時代に結晶化されていたんだよ、というのは、別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく生物好きとしては不思議に誇らしいし、いわゆる赤血球の一部としてしかヘモグロビンを知らない彼女には見せてあげたいなと思う。



ヒストン


生体内の「転写の実際」あるいは「物質としてのDNA」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。

「他の人は見ないような視点で生物を見る」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、だからこそエピジェネティクスの主役はヒストン以外にあり得なかったとも思う。


細胞内の代謝とは違う次元で働く分子はフロンティア」というオタの感覚今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の源はヒストンにあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、単純に楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。



プリオン


これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。

語源が "感染するタンパク質因子" であるというえげつなさを乗り越えて、純粋高分子としての面白さをこういう形で異常型化してみて、それが非オタに受け入れられるか気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。



ロドプシン


9タンパクまではあっさり決まったんだけど10タンパク目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にロドプシンを選んだ。

インスリンから始まってロドプシンで終わるのもそれなりに語呂はいいだろうし、初めて構造がとられたGPCRとして、膜タンパクターゲットとした創薬の先駆けとなった分子でもあるし、俺の研究テーマでもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいいタンパク質がありそうな気もする。

というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10タンパク目はこんなのどうよ、というのがあったら教えてください。

「駄目だこの半端バイオ野郎は。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。

こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。



元ネタ


アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本

化学オタが非オタの彼女に化学世界を軽く紹介するのための10物質 - 有機化学日誌



後記

えと、完全に現実逃避です。すみません。

ちなみに最初の画像はアミロイドベータです。

*1コラーゲン身体タンパク質全体の1/3を占める。3残基ごとにGlyが出てくる特殊な配列が三本よりあって繊維形成。P, Lは翻訳後修飾をうけ、修飾時に補酵素としてVitamin Cが使われるので不足するとお肌によくない。ちなみに皮膚にコラーゲン塗っても分子量が大きすぎるので吸収されたりしない。分子自体に保水性はある。

*2:GFPはオワンクラゲから発見された

RocRoc36RocRoc36 2008/08/05 09:17 おもしろいね。構造屋なのかな?テンプレに合わせなきゃならないのに、これがすらすらでてきたのだとしたら相当なもんだね。コンサルかなにかになったら?

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