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【社説】

ODA贈賄 汚れる援助の根を断て

2008年8月5日

 中国での遺棄化学兵器事件に続き、大手コンサルタント「PCI」元幹部が逮捕された。ベトナム高官への贈賄容疑だ。開発援助先にはびこる腐敗を根絶するためにも、徹底捜査が求められる。

 ベトナムは社会主義体制を維持しつつ、積極的に工業国入りを目指している国だ。高い経済成長を続け、二〇〇六年には8・2%もの成長率を達成した。

 日本からの政府開発援助(ODA)額は昨年度、インド、インドネシアに次いで多い。一千億円を超す。国際協力銀行によれば、ベトナムに対しては、一九九二年から〇六年までに、円借款だけで約一兆円と巨額だ。介在する企業には、“カネのなる国”に見えるだろう。

 東京地検が摘発したのは、「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)側が、ベトナムの公務員に約一億円の賄賂(わいろ)を贈った容疑だ。不正競争防止法で禁止されている「外国公務員への贈賄」が適用された。

 実際にPCIが、〇一年度から受注したODA事業は、共同企業体の業務も含め十三件ある。無償資金協力と円借款で約八十五億円にものぼる。道路建設などのインフラ整備事業である。

 日本はODA予算を減額しており、その分、国際的な影響力や存在感は低下している。さらに、ODAに絡んだ不正だから、日本の援助の“品格”さえ問われることになる。厳しく捜査を進めてもらいたい。

 PCIは中国での旧日本軍の毒ガス兵器処理事業でも不正があり、過去にも十数カ国での不祥事が発覚した。外務省から指名停止にもなった。企業体質が腐食している。ODAを食いものにしていると、批判されても当然だ。

 途上国では公務員に賄賂を贈る、あしき商習慣が、残っている点も考えねばならない。だが、外国公務員贈賄防止条約があり、日本も九七年に署名している。不正競争防止法にこれを禁じた条項を盛り込んだのも、そのためだ。

 問題はこの法律での摘発が、フィリピン高官に対する接待の一件しかないことだ。経済協力開発機構(OECD)の会議では、日本の手ぬるい取り組みが、やり玉に挙がった。

 賄賂やリベートが横行しては、現地国の腐敗が進むばかりだ。企業間競争も阻害される。悪弊の一掃は、国際社会からも望まれる。汚濁をなくす努力は、先進国の責務ともいえよう。

 

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