米原子力潜水艦が長崎などで放射能漏れを起こしていた可能性があることが分かった。米側からの情報を軽視し、放置した外務省の対応は問題だ。これでは「国民目線」の行政とは言えない。
「安心実現内閣」−。就任後初の改造人事にあたって福田康夫首相は、自らの内閣をこう命名した。だが、その門出の日に米軍基地周辺住民に不安と不満を抱かせる事案が舞い込んでいた。
米海軍は一日、原子力潜水艦ヒューストンが今年三月下旬、長崎県の佐世保基地に寄港した際、微量の放射能物質を含む水を漏らした可能性がある、と日本外務省に伝えた。七月にハワイで実施した定期点検で発覚した。人体や環境には影響がない「極めて微量の放射能」という。沖縄県うるま市の沖合にも一時停泊していた。
米側はことさら重大事故でないと強調したいようだが、漏れたこと自体が大きな失態だろう。分かってから日本への通報に一週間かかったのも遅すぎる。政府は強く抗議するとともに、原因究明と再発防止の徹底を求めるべきだ。
九月には原子力空母ジョージ・ワシントンが神奈川県の横須賀基地へ配備される予定。同空母は五月にたばこの不始末で火災を起こしたばかりだ。米海軍の規律がこう緩み切っているようでは、地元住民の不安は消しようがない。
納得いかないのは日本側の対応だ。連絡を受けた外務省は米側の説明や、ヒューストン寄港時に文部科学省の放射能調査で異常な数値が検出されなかったことを考慮。関係自治体などに即座に連絡しなかった。高村正彦外相は二日朝に米CNNの報道で初めて知った、と言っている。情報連絡体制がお粗末すぎる。
一日遅れで情報を知らされた佐世保市民らは「なぜ外務省は事実を把握した段階で連絡しなかったのか」と憤慨した。住民が抱く放射能への不安感に外務省はもっと敏感であるべきだ。仮に米側への配慮から「情報隠し」があったとすれば、もってのほかだろう。
外務省は四日、米側から通報を受けた全案件を今後速やかに関係機関に連絡するとの対処方針を発表した。当然の措置である。
情報伝達や公開のまずさは外務省に限ったことではない。首相の言う国民目線の行政は、情報公開の徹底と表裏一体の関係にある。政府全体がこの基本をかみしめなければ首相の決意も空回りする。
この記事を印刷する