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社説:原潜放射能漏れ 許せぬ外務省の情報囲い込み

 政策や国家の対応に責任を持つ政治家の耳に入れないまま、官僚組織の内部で情報を囲い込んでしまおうと考えたのか。米原子力潜水艦ヒューストンの放射能漏れをめぐる外務省の対応を見ていると、そんな疑念がわいてくる。

 ヒューストンは今春、長崎県・佐世保港に入港している。その原潜の放射能漏れは、国民、関係自治体の大きな関心事だ。それを外相や首相官邸に連絡しなかったということは、外務省の危機管理意識の薄さを象徴すると同時に、「判断は政治でなくて官僚」「情報は公開よりも囲い込み」という考えが横行している体質上の問題をうかがわせる。

 事の経緯はこうだ。冷却水の漏水による放射能漏れが発見されたのは、ハワイで定期点検中の7月後半。漏水は数カ月にわたっていた可能性があるという。ヒューストンは3月12日に沖縄県うるま市のホワイトビーチ沖に停泊し、佐世保には3月27日から4月2日と、同6日の2回入港している。米政府から漏水の連絡が外務省に入ったのは今月1日午後だった。

 ところが、高村正彦外相がこの事実を知ったのは、2日朝の米CNNテレビの報道によってだった。外相からの確認で担当部局が認め、外相が公表を指示したというのだ。

 1日あるいは半日の報告遅れという問題ではなかろう。CNNの報道がなければ、外相や福田康夫首相への報告もなく、公表もされなかった可能性が高い、と言わざるを得ない。

 漏れた放射線量が人体や環境に影響を与えるものではないとの米側の説明や、日本寄港時の放射能調査で特異な数値が検出されなかったことは、報告しなかった理由にならない。もしこれらを言い訳にするなら、問題の重要性を認識できなかった外務省の意識の低さこそ問われる。外相や町村信孝官房長官が同省を批判し、同省が連絡体制の改善を打ち出したのは当然だ。

 米国の原子力艦船をめぐっては、原子力空母ジョージ・ワシントンで、規律違反の喫煙を原因とする火災が5月に発生し、艦長が更迭されたばかりだ。同空母は神奈川県・横須賀港を母港とする予定で、初の原子力空母の日本への配備となる。8月中に到着する計画だったが、火災で遅れている。母港化には、地元で反対運動も起きている。

 放射能漏れを公表すれば、この反対の声をさらに燃え上がらせることになりかねない--外務省にはそんな判断があったのではないか。そう考える国民は多いだろう。

 外務省はこうした疑問にきちんと答えなければならない。放射能漏れは省内のどのレベルまで把握していたのか。外相や首相官邸に連絡をしなくてもよいと判断したのは一体誰なのか。外務省は一連の経緯を検証し、公表すべきである。

毎日新聞 2008年8月5日 東京朝刊

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