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社説:PCI事件 海外での贈賄、根絶の契機に

 ブラジルへの開発援助状況を調べに来た米州開発銀行の行員が現地の役人に尋ねた。「あの道路のアスファルトは厚さ10センチのはずなのに5センチしかない。あとの5センチは?」「私の懐に入りました」「4車線のはずなのに2車線しかない。あとの2車線は?」「知事の懐に」「川に架かるはずの橋は?」「大統領の懐に」

 ブラジルに伝わるジョークだ。政治家や官僚が援助資金をピンハネしているという皮肉がこもっている。

 ベトナムでの政府開発援助(ODA)事業受注の見返りにホーチミン市幹部に約9000万円のわいろを現地で渡したとして、大手コンサルタント会社「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)の前社長ら4人が不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)容疑で東京地検特捜部に逮捕された。

 PCIが受注したのは、日本の円借款によるホーチミン市内の高速道路建設事業のうち、計約30億円のコンサルタント業務。市幹部と受注額の10%前後を提供することで合意し、渡した総額は3億円近くに上る疑いもあるという。日本のODA資金の一部が回り回って幹部の懐に消えたことになり、ブラジルのジョークを笑い飛ばせない。

 外国公務員への贈賄罪が新設されたのは98年。わいろ提供は公正な国際商取引をゆがめるとして、経済協力開発機構(OECD)の外国公務員贈賄防止条約が採択され、日本も批准したためだ。ところが、同罪の立件は、来日したフィリピン政府当局者に設備工事会社員2人がゴルフクラブセットを贈ったとして略式起訴された1件だけだった。

 OECDからは「日本の捜査は消極的」と批判の声も上がる。だが、もともと収賄側は外国人で国内法では罰することができないうえ、捜査に応じてもらうことも困難なため、緻密(ちみつ)な立証を要する日本の捜査には高い壁があった。今回立件できたのは、PCI側の詳細な供述証拠などに加え、ベトナム当局が日本の捜査共助要請に応じ、捜査に協力した点が挙げられる。

 開発途上国での事業受注には高官へのリベートが欠かせないともいわれる中で、初めて現地での贈賄を立件した意義は大きい。捜査当局には今回の手法も参考にして、さらに積極的な摘発を進めてもらいたい。

 途上国のODA事業に絡む贈賄は、公正な競争を阻害するだけでなく、高官の不正蓄財をしやすくし、その国の腐敗を招く。企業側はわいろを捻出(ねんしゅつ)するため、経費の水増しや手抜き工事に走るかもしれない。そのツケはその国の国民に回り、貧困層に援助のメリットはなかなか行き渡らない。

 こうした贈賄行為が国際貢献とは真っ向から相反することを企業は改めて肝に銘じ、法令順守を徹底すべきだ。事件を海外での贈賄を根絶する契機としたい。

毎日新聞 2008年8月5日 東京朝刊

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