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途上国とのビジネスでは相手政府の高官らへのわいろは欠かせない――。まことしやかにささやかれてきた話だが、日本政府の途上国援助(ODA)でもそうした腐った現実のあることが明るみに出た。
舞台はベトナム・ホーチミン市。日本のODAで高速道路を建設するプロジェクトで、コンサルタント業務を請け負った日本企業「パシフィックコンサルタンツインターナショナル(PCI)」の前社長ら4人が、同市の幹部に約9千万円のわいろを渡した疑いなどで東京地検特捜部に逮捕された。
PCIの複数の元幹部は「外国公務員へのリベートは会社が設立された直後から40年近く続いていた」と朝日新聞社の取材に答えている。
途上国には、インフラ整備などで巨額の開発援助資金が流れ込む。それを目当てに先進国の企業が相手国の高官にわいろを贈って取り入り、工事などを受注する。業界では以前から、半ば当然のことのように語られてきた。
これをただそうと97年、外国公務員贈賄防止条約が採択され、日本も不正競争防止法を改正して外国公務員への贈賄罪を設けた。
ただ、この罪で摘発されたのは昨年に1例あっただけだ。福岡の設備工事会社の社員がフィリピンの高官にゴルフ用品などを渡し、罰金刑を受けた。
今回のPCIのケースは二重の意味で悪質だ。わいろの金額の大きさもさることながら、ホーチミン市の公務員の汚職・腐敗を助長したこと。さらに、日本国民の税金が投入されているODAを食いものにしたことだ。せっかくの援助なのに、ベトナムの人々は失望したことだろう。
PCIが他の国でも同じことをしていなかったとは信じにくい。PCI以外の日本企業はどうなのか。検察はこれを機に調べてもらいたい。
不正を許した外務省など日本のODA担当部門は、援助契約の点検や事後調査の方法などをもう一度、最初から見直すべきだ。
ただでさえ日本は、財政難から10年近く連続してODA予算を減らし、国際的な責任を十分に果たせないでいる。こんな犯罪がまかり通っては増額はおろか、現状の規模ですら国民の理解は得られまい。
確かに、問題の根源は相手国政府の汚職・腐敗体質にある場合が少なくないだろう。だからこそ、開発援助がそうした体質を温存し、民主主義の発展を妨げることのないよう、先進国や国際機関は知恵を絞っている。
アフリカなどへのODAはもっと増やさねばならない。それには納税者の理解が欠かせないのだ。きれいごとだけで途上国ビジネスはできぬと言うなら、そんな企業はODAから追放したらいい。
日本国内の原子力発電所で同じようなことが起きたら、こんな悠長な対応だったろうか。
米原子力潜水艦ヒューストンの中で微量の放射能を帯びた可能性のある冷却水がしみ出ていた。ハワイでの定期点検中に気づいた米軍は、この原潜が今年3〜4月に長崎県・佐世保、沖縄に寄港していたことから、日本時間の1日に日本外務省に連絡した。
ところが、外務省は軽微な事故という判断から、関係自治体への連絡を怠っていた。長崎県などへの通報は、米CNNが事故を報道した後の2日になってからだった。
外務省はあまりに感度が鈍すぎないか。軽微とはいえ、ことは原子炉の事故である。原子力事故に対する敏感さは国によって異なるが、日本では、被爆経験もあって、世論が放射能汚染をもたらす事故に厳しく反応してきた。原子力行政は軽微な事故でもきちんと事実を公開し、関係自治体などに通報することを原則としている。
過去には、68年に米原潜ソードフィッシュが佐世保に寄港した際に、当時の科学技術庁の調査で、平常の10〜20倍の放射能の異常値が港内の海水から検出されたことがある。
米側の発表によれば、今回の全航海中に漏れたであろう放射能の量は、全体でも肥料1袋分に存在する程度と推計している。人体や環境に影響を与えるものではないという。
それでも事故の当事者である米国は、透明性を維持する趣旨から、日本政府に通報したという。日本政府がその事実を伏せる必要があったとは思えない。
外務省の説明によると、これまでは「原子力艦の原子力災害が発生したか、あるいは発生の恐れがある」という通報を米側から受けた場合に限って自治体に連絡するとされていた。
だが、何が「原子力災害の発生」や「発生の恐れ」に当たるのかについて、明確な基準があるのだろうか。ただでさえ、軍事機密のベールに覆われて、外部の者にはなかなか知り得ない原子力潜水艦の事故である。どんな軽微な事故であっても、すみやかに関係自治体に通報するのが筋である。
外務省は4日、これまでの通報体制を改め、米側から原子力艦船の安全性にからんで通報があった場合、事故の軽重にかかわらず関係省庁と関係自治体に連絡することにした。当然のことである。
今回の事故がなぜ起きたのかはっきりしない。政府は米側に原因を究明して説明するよう求めてもらいたい。
米海軍は9月にも神奈川県・横須賀に初の原子力空母ジョージ・ワシントンを配備しようとしている。原子力艦船の安全性については、念には念を入れる必要がある。