火星に着陸し、観測を続けていた探査機「フェニックス」の土壌分析により、水の存在が確認されたと米航空宇宙局(NASA)が発表した。地球以外の天体では初めてのことだ。地球外生命の発見に期待を抱かせる成果といえる。
NASAによれば、ロボットアームによって地表から約五センチ下の土壌を採取し、加熱したところ、水蒸気の発生が確認できたという。土壌中の氷が溶けたと推定される。
水の存在をうかがわせる状況証拠は火星で幾つも見つかっている。二〇〇五年、欧州宇宙機関の探査機がクレーターの底に張った氷を思わせる美しい映像を送ってきた。昨春にはこの探査機のデータに基づきNASAの研究チームが火星の南極に大量の氷があると発表した。
水が注目されるのは、地球の生物を基に考えれば液体の水の存在が生命の発生に不可欠だからだ。水と、体を構成するための有機物、それにエネルギーが生命の必要要素とされる。
現在の火星は極めて低温で、液体の水があるとは考えにくい。だが、川の跡らしい地形などから過去には液体の水が大量にあったと考えられている。とすれば、太古に生命が発生し、今も少なくともこん跡が残っている可能性は否定できない。
今年五月に火星に到着したフェニックスの目的は、水の検出など生命の存在が可能な環境の有無を火星で確認することだった。そのため、着陸地点も氷が大量にあると推定される高緯度地域が選ばれた。
水の確認に続き、有機物の検出がフェニックスの次の任務になる。NASAは八月下旬までだったフェニックスの運用期間を九月末まで延長する。
将来の探査に待つことになろうが、たとえこん跡であっても地球外の生命が確認できれば素晴らしい。地球の生物と比較することで人類の生命に関する知識は飛躍的に増そう。病気の治療や寿命に関する研究の進歩につながるかもしれない。
今回のフェニックスを含め、過去に火星への着陸を試みた探査機十四機のうち、成功したのは六機にとどまる。また、約六億八千万キロを旅して火星に着いたフェニックスには約四百七十億円もの費用がかかった。
火星に限らず、宇宙探査には高度な技術と巨額の費用を要する。地球外生命探しの旅にも国際協力がますます重要になってこよう。人類にとって長年の夢だった地球外生命についに出合い、知の地平が押し広げられる日が待たれる。
米原子力潜水艦ヒューストンが今年三月下旬、長崎県の米海軍佐世保基地に寄港した際、微量ながら放射性物質を含む水漏れを起こしていたことが明らかになった。
米側から日本政府に知らせがあったのは事故把握から約一週間後の一日で、しかも日本の外務省が地元の佐世保市などに連絡したのは翌二日だった。事故に二重の通報遅れが加わったことで、不信が増幅した。
米海軍によれば、ヒューストンは佐世保に一週間寄港した後グアムに停泊し、ハワイでの定期検査で七月下旬に水漏れが発覚した。事故は報道機関が伝えた後に米海軍が確認した。
人体には影響ない程度というが、放射能漏れは量にかかわらず重大だ。米側は原子力に敏感な日本人の感情への配慮を欠いたといわざるを得ない。
一方、外務省は人体に影響がないことから「即時通報の必要なしと判断した」というが、放射能漏れは地元住民の安全に直接かかわる事態だ。地元軽視のそしりは免れまい。
米原子力艦船の日本寄港については日米の放射能調査や事故時の速やかな相互通報が定められているが、どのレベルの事故から通報するかはあいまいという。改善が求められる。
神奈川県の横須賀基地に配備予定の米原子力空母ジョージ・ワシントンで五月に起きた火災は乗組員の喫煙が原因と判明した。米海軍の規律の緩みがうかがえ安全性に懸念が増す。
ヒューストンは佐世保寄港前に沖縄にも立ち寄っている。ここでの放射能漏れの有無を含め米側は詳細な事故原因と通報遅れの経緯を調べ、あらためて公表すべきだ。外務省も不適切な判断をもたらした組織上の問題点を洗い出し、対処策を示す必要があろう。
(2008年8月4日掲載)