「実は僕は面接は得意なんです」
ナカタニは最後のプライドを見せた。
「ふーん」
ムラヤマは"全く信用してないぜ"と言わんばかりに気の抜けた返事をした。
「じゃどんな風に面接しているのか話してみればー」
ムラヤマはミカワのようにおネーことばで促した。
「はい。私は面接は説得だと思うんです。いかに自分のセールスポイントを面接官にたたき込むか。そのためには自分のUSPである
自己PRをまず説得します。僕が何ができるか、それを相手の会社にどのように生かすか。それをカンタン、明瞭に説得していきま す。」
ナカタニはのってきた。"今度こそはムラヤマにひと泡吹かせられる"と内心ワクワクしてきていた。
「そして面接官が興味を持ってきたら、自分の企画を説明します。明日の子供たちの心を作る、高潔な番組。僕がやりたいと思ってい
るこの番組を、熱意を込めて話します」
ナカタニはさらに続ける。
「でもただアイデアを話していてはダメです。なぜそういう企画を考えたか。その背景やターゲット、勝算を科学的に話していきます。な
にしろ相手は僕が社会で通用するかどうかを判断する訳ですから」
ちょっと声がうわずってきたナカタニが、さらに話そうとすると、
「ねぇー、まだあるの?」
とムラヤマがチャチャを入れた。
「はいっっっ?」
ナカタニは"何このオッサン口はさんできてるんだよ?ウンっ?"とでもいいたいかのように聞き返した。
「だって相変わらず『ヘ』なんだもん。そんなことやったってゼッタイ受かんないんだもん」
ムラヤマは幼児みたいに、駄々をこねるように言った。これにはナカタニも激怒した。
「こらー、オッサン、どこが悪いんちゅーんだいっ?」
「オレを納得させないと、ドタマかち割って血吸うたるぞーっっっっ!」
ナカタニは広島ヤクザになってしまった。すかさずムラヤマが冷静な声で答えた。
「だって君、それで落ち続けたんでしょ?」
ナカタニの顔から血の気がひいていった。
「は、はい」
ナカタニはシュンとしてしまった。ムラヤマが続ける。
「面接ってね、ほとんどの本やインチキ先生たちは明瞭に話せって言うんだよ。でもね・・・」
ムラヤマはカラダを乗り出し、
「内定している人たちを見るとみんな話なんてほとんどしてないんだよ」
"えっ?今なんて言ったの?"
ナカタニは訳が分からず、きょとんとしてしまった。それでもがんばってひとことだけ質問した。
「それでは何をしているんですか?」
ムラヤマが答える。
「みんな面接官の話を聞いていただけなんだね」
「だいたいマスコミの面接官て、みんな自己顕示欲強いでしょ。もともとマスコミで働いているし、それに加えて成功している人ばかりで
しょ。だから自分の話、それも自分の自慢話をしたくてしょうがないのよね」
「だからね、黙ってその話を聞いていればいいんだよ」
ナカタニは何がなんだかさっぱり分からなくなってきた。
"だって面接でしょ?ならば聞かれたことに答えなきゃいけないんじゃない?"
"面接官の話を聞く?どうやって話を聞くようにもっていけばいいんだよ?"
この質問を見越したように、ムラヤマが言った。
「どうやって面接官に話させればいいのかって思ってるでしょ?」
「はい、その通りです」
心を見透かされたナカタニは即答した。ムラヤマが答える。
「まず面接官はくだらない話をしてくるでしょ?これは100%の面接官がそうしてくる。これはアイスブレーキングっていって、被験者があが
らないようにするために、最初の2、3分は世間話をしろって人事から命令されるからなんだよね」
"確かにそうだ"
ナカタニは思い出した。どんな面接も最初は面接官がなごやかな質問をしてくれる。でも"こんなぬるい話、しにきたんじゃねー"と思
って、全く無視して自分の話ばかりしていた。
"これがいけなかったのか"
そう思ったとたん、ムラヤマが続けた。
「このアイスブレーキングの時にこう言うのよ」
「『今日は吉岡さん(面接官の名前)がどんなサクセスストーリーを作られたのか、ぜひ勉強させていただこうと思ってきました』って」
「こう言えばね、面接官はうれしくなって、『そう。じゃしょうがないから少しね』といいながら延々と話し出すんだよね」
ムラヤマはさらに続ける。
「こうなったらね、ただひたすら相手の言うことを聞けばいい。ただし、ここで大切なキーワードが3つある。このキーワードを駆使してひ
たすら話を聞けばいい。そのキーワードは・・・」
「『なるほど』『私もそう思います』『とても勉強になります』の3つ。面接はね、この3つの言葉だけを言えばいいんだよ」
これにはナカタニも疑問をいだいた。
「先生。とはいっても、いろいろな質問を受けるじゃないですか。例えば、自己PRや志望動機、企画を具体的にどう答えればいいんで
すか?」
ムラヤマはムッとして答えた。
「えーっ!ここまで説明してまだ分からないの?ホンモノのバカなんだね」
そう言われても、ナカタニはもう口答えをする元気は残っていなかった。そこで、
「すみません、ムラヤマ大先生。ぜひ詳しく教えてください」
と懇願した。これにはムラヤマも気をよくして、
「やっと君もボークの偉大さが分かったきたのね」
と言いながら、話をはじめた。
「自己PR?それは面接官が話した自慢話から抜き出せばいいんだよ。例えば、交渉で成功した話を面接官がしたら、『僕も吉岡さんほ
どではないですけど、交渉力には少し自信があります』って言えばいい」
「そうすれば、相手は勝手に自分の経験と重ねて『こいつはすごい』と思ってくれるんだよ。これを類似の法則っていうんだよ」
ムカタニは感心してしまった。すると次も聞きたくなる。
「次は志望動機を教えてください」
ムラヤマが答える。
「志望動機がいちばんカンタンね。質問されたら、『吉岡さんのような方がいらっしゃることです。いろいろと考えてきたんですけど、今
日吉岡さんとお会いして、"こういう方が働いているということが、まさしく志望動機なんだ"って思いましたから』って言えばいいんだよ」
「どう?分かりやすいし、イヤミはないし、サイコーの答えでしょ?」
ナカタニは泣けてきた。まるで発想が違う。自分がやってきたことは全て間違っていた。今なら素直にそう思える。
「それでは最後に企画について教えてください。これがいちばん苦労したものですから」
ムラヤマはニッコリ笑って、
「いいですよ」
と答え、続けた。
「企画はね、面接官の話を使って、それを少し未来形にすればいいんだよ。『吉岡さんの成功した話のようなことをやりたいのですが、
それをもう少し21世紀的にして・・・』」
「こんな風に答えればいい。ポイントは『21世紀的』ってとこね。人はこう言われると、先進感とやる気を感じるものなのよ」
「答えなんてどーでもいいの。ただこの『21世紀的』って言葉を使えば、それでOK」
「なるほど」
ナカタニは無意識に答えてしまった。
「そう、それでいいのよ。相手が言ったことに対してすかさず相づちを打つ。これが面接の必勝法なのです」
「あとは面接官の言ったことをオウム返しにすれば受かるのです。だから面接なんて事前に何にも考えていかなくていいのよ」
ナカタニは感動していた。それとともに"これならゼッタイ内定できる"という自信もみなぎってきた。
「先生。ありがとうございました。今日の先生との出会いで僕の人生は変わると思います。こんなにすごい意識転換は今までありませ
んでしたから」
「そう。そう言ってもらえるとボークもうれしいよ」
そういいながらムラヤマは、ニコニコしながら、なにやら紙を取り出した。
「じゃ、これにサインしてね」
なにやら契約書のようなものだった。
「なんですか、これ?」
ナカタニが尋ねるとムラヤマは言った。
「もしマスコミに受かったら、僕のおかげでしょう?だから受かった場合は、毎月の給料3%をいただくことにしているのです。だから君もこ
こにサインしてね」
"カリスマのカリスマたるところはこういうところにあるんだなー"
ナカタニは少し大人というものが分かった気がした。 (終わり)
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