新型インフルエンザに備え、臨床研究のためワクチンの事前接種を受ける医療関係者=4日、東京都内、代表撮影
新型インフルエンザに備えて多くの国民にプレパンデミック(大流行前)ワクチンを事前接種するための臨床研究が4日、始まった。今年度中に医師や検疫官ら6400人に接種する予定。有効性や安全性を確認できれば、政府は1千万人に広げる検討をするが、世界初の大規模な試みに疑問の声も出ている。
ワクチンは、インドネシア、中国で採取された強毒性の鳥インフルエンザ(H5N1)の株からつくり備蓄している2千万人分の一部。同日には東京都内の病院で、医師や看護師、薬剤師ら約70人に接種した。今後、全国60の病院で6400人に各人2回ずつ接種。後に血液検査をして抵抗力が上がっているかを調べる。
厚生労働省によると、大規模な事前接種は、世界初の試み。政府は問題がなければ09年度から、警察官や自衛官、電気や水道などライフライン関係者ら1千万人に接種を広げる。さらに10年度以降、子どもを含めた希望する国民にも拡大する方針だ。
新型インフルは、鳥インフルのH5N1がもとになって起こると懸念される。今年6月19日までに世界で計385人に感染、うち243人が死亡した。人から人に感染しやすくなった新型インフルにはまだ変異していない。
新型は、H5でなく、H7やH9など別の亜型から起こる可能性もある。この場合、備蓄ワクチンはほとんど効かない恐れがある。また、備蓄ワクチンは、H5から新型が起こったとしても、効くかどうか不明と指摘される。
いま、このタイミングで事前接種が必要なのか。専門家の間でも見方は分かれる。賛成派、反対派の研究者が意見を交換しようと7月下旬には、シンポジウムも開いた。
西村秀一・国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長は「大規模接種は、効果と危険性のバランスをよく考えるべきで、透明性ある十分な議論が必要だ」と慎重な実施を求める。
一方、今回の接種に携わる国立病院機構本部の伊藤澄信・医療部研究課長は4日、「今回のはあくまでワクチンの安全性と持続性、効果をみる臨床研究の位置づけだ」と記者らに説明。接種拡大は研究結果による、との政府方針を強調した。