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名古屋事故機と同じオーチス社製 エスカレーター事故

2008年8月4日3時2分

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 名古屋市で5月に起きたエスカレーター事故が、同じ製造元のエスカレーターでまた起きた。3日、10人が負傷した東京・有明の東京国際展示場(東京ビッグサイト)。お目当ての展示に向かって先を争うように乗った来場者が次々に、下へ下へと滑り落ちた。エスカレーターは緊急点検を終えたばかり。大惨事につながりかねない事故がなぜ続くのか。

     ◇

 異変は、大きな音から始まった。来場者がエスカレーターに乗り始めて1分たったかどうかの時。会場のスタッフが音のした方向をみると、1階と4階を結ぶ上りと下りのエスカレーター2基が、ともに下りに向かっていた。

 乗っていた男性(41)によると、午前10時に会場への入場が始まると、出店のブースが並ぶ4階につながるエスカレーターを目指して大勢の人が先を争うように走った。1段に3人が並んだ段もあったが、警備員が制限している様子はなかった。

 「危ないかな」。ロビーから5メートルほど上った男性がそう感じた時、突然「ガクン」と揺れがあった。途端に上から人が落ちてきた。自分も体の左側を下にするかたちで落ち始めた。下の方から「早くどいてー」という警備員の大声が聞こえた。1階ロビーまで落ちた人たちは次々と逃げたが、動けない状態の人が1人見えた。

 だが、大勢の人は再び、フィギュアのある4階を目指して、今度は階段を駆け上がっていった。自分も階段で4階まであがったが、左脇腹が痛み始めたため、病院に向かった。「欲しいものを買うためには、最初の30分が勝負。年2回来ているが、何も買えない上に、こんなけがをしてしまった」

 この男性の近くにいた東京都板橋区の男性会社員(36)も、「ガッガッと引っかかるような感じ」でエスカレーターが前後に動き、止まるかなと思った瞬間に下り方向に動いたと証言。「滑り台を落ちるような感じだった」という。「逃げろ」「危ないから下がれ」。悲鳴が飛び交う中、はうようにして逃れたが、左足首から血が流れていた。

 出店するため茨城県から来たフリーターの男性(42)もやはり、エスカレーターが下り方向に動く前、車のギアが壊れたような「ガタガタ」という音を聞いた。とっさに逃げようと思ったが、エスカレーターには人が多くて逃げられず、1階まで落ちた。それでも男性は「イベントは中止して欲しくない」。実際、イベントはこの日、事故後も続いた。

     ◇

 事故が起きたエスカレーターは、5月の名古屋市営地下鉄駅での事故と同じオーチス社製の同じタイプで、停止後に下がった点も似ている。警視庁はこうした共通点を踏まえ、エスカレーターの構造や保守点検に問題がなかったか調べる方針だ。

 名古屋の事故では、ブレーキをかける制御装置がのった鉄製台座を固定するボルトが折れ、台座がずれていた。このためブレーキが十分に利かず停止後に人の重みで下に落ちていったとみられている。

 国土交通省によると、この事故と同タイプのエスカレーターは全国に66基。内訳は、今回現場となった展示場に8基、東京都営地下鉄大江戸線の3駅に計29基、新交通「ゆりかもめ」の2駅に計4基、東京国際フォーラムに6基、名古屋市営地下鉄の3駅に計19基。いずれも、名古屋の事故を受けて、緊急点検を実施した。

 その際、東京都営地下鉄駅の4基でも同じ場所でボルトが折れているのが見つかり、オーチス社は、6本ある固定ボルトの直径を16ミリから20ミリにする補強作業をすべての同タイプ機で行った。

 しかし、同社によると、今回の事故機は名古屋の事故前の昨年12月に補強作業を終えていた。3日の事故後も、ボルト部分の欠損がないことを確認したという。

 「失敗学」の提唱で知られる畑村洋太郎工学院大教授は、メーカーは1日に何百回も大人数を乗せる想定で設計しているはずだと指摘。「エスカレーターのメカニズムとして、逆走が起こることは通常はあり得ない。名古屋の事故と同様、想定外のことが連鎖して逆走に至ったと考えられる」と話す。

 エスカレーターの保守点検業者でつくる業界団体の役員の一人も「96年製のエスカレーターは決して古い部類ではない。事故防止のためにメーカーは二重、三重に安全設計しており、今回のような下降は普通は考えられない」と述べ、徹底的な原因の解明が必要だとしている。

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