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2008-08-03

職業軍人が一般社会での処世を説くことの愚

明日の講義の資料を作っていて、頭を抱えてしまった。だめだ。教えるのは無理な気がする。

先週の京大生の就職難問題*1とかその周辺議論について考えると、なにを説こうと無意味な気がするんだよなあ。


そもそも、大学をブランドではなく内容で選んで入る学生ってどのくらい居るんだろうか

これは明日から始まる九大オムニバス講義の打ち合わせでも出た議論。

そもそも大学というのは手段であって、本当に自分のやりたいことを教えてもらえるか、その手助けになるかという方が重要なはず。

しかし実際には研究室の内容も見ずに自分の成績で入れる最もブランド力のある大学に入ろうとする人の方が多いのではないか。

自分の経験から言えば、少なくとも僕はそうだった。

曲がりなりにも国立大学で、しかも夜中しかないから昼間は働いてられる。受験勉強も殆どしなくて良い。実際、受験勉強らしいものはせずとも合格できた。

で、いざ入ってみると、電通大の先生方には申し訳ないけれども、どの研究室もひとつとして興味が持てず、「このまま四年間ここに居てなんになる」と思った。

もちろん、18かそこらのガキが、偉大なる先生方の研究にケチをつける資格などあるわけもないが、ガキの視点からみれば、どれもこれも地味で退屈な研究にみえたのだ。

大学を卒業して得られたであろう最もマシな未来は、地味な研究に打ち込むか、それなりの大手企業に就職することであり*2、なんていうか先が見えて退屈していた。

自然、仕事の方が面白くなった。

勉強には全く身が入らず、四年間で取得した単位は法学と哲学だけ*3

そうして落伍者となったわけだけど、僕はきっと生まれ変わっても大学を中退するだろうなと思っている。


要するに大学というやつは僕には全く不向きだった。

18かそこらの世間知らずのガキが自分に向いた学校を自分で見つけ出すことなんてそう容易ではない。

その頃というのは、まだ自分が何者なのかも解っていないのだ。




ただもちろん、そういうことに習熟したホンモノの研究者の人々への尊敬と憧れはあって、大学の先生方とは学生時代よりも今はずっと親交がある。

それは学派やブランドを超えた、どちらかというとプログラマー同士のつきあいに近い。

一流のプログラマーが別のプログラマーと話をするとき、その相手がどんなブランドを持っているか気にする人はいない。

一流のプログラマーは常にプライベートなブランドを持っているものだし、大企業のプログラマーほどそこからかけ離れていくものだ。

プログラマーは大学を出ていようが居まいが無関係で、ただ成し遂げた仕事だけで評価される。

とてつもなく凄いコードがあったとき、それを書いたのが中学生だろうが東大教授だろうが関係ないのだ。

一種のスポーツマンシップと言っても良い。

所属チームや出身校で選手の評価をするのは、素人だけなのだ。

実際には、凄い選手は凄い。どこの出身とかは関係ないのである。

イチローが「マリナーズだから凄い」とは言われない。「凄いイチローがマリナーズに入った」だけである。



ただ、こういうレベルで話をするには、まず自分がそれなりのコードを書かないといけないし、その存在感を内外にアピールしないといけない。

部屋の中で傑作が出来ました、では相手にしてもらえない。何回ヒットを打ったか、ホームランを飛ばしたか、それが大事だ。

つまり自分のブランドを自分で作っていく必要がある。



みんながみんなそんなことができるわけではないだろうし、プログラマーっていうのは、少しハイテクだから間違えがちになるけど、どちらかというと、棋士やパチプロ、大工や職人、そしてプロスポーツ選手、職業軍人に近い。

そういう世界では学歴なんか関係ないのは当然だし、下手すりゃ足かせにさえなる。一流どころの稼ぎも普通のサラリーマンよりずっといい。

そこいらの弁護士よりずっと稼いでいるプログラマーも居るし、そういう人に学歴は関係ない。

だからプログラマーをやってる(やってた)者がプログラマーでない人の人生のことをどうこういうのはやっぱり間違っているというか、難しい。

イチローが「学校なんか行く意味ないよ。勉強しなくていいよ」と言っても、「そりゃあんたは野球選手だからな」としか思えないだろう。

dankogaiもmkusunokも、そして僕自身もプログラマーである(だった)のだから、その時点で誰かになにかを教える資格など持っていないような気がする。少なくともプロ野球選手が学歴について語るのは無意味ではないか。いくら江川がなんとか大学に行っていようとも。

中卒で段位を取ったプロの棋士に東大生が囲碁で負けて「おまえは馬鹿だ」と言われたら困る。東大に入る能力は、それとは関係ないのだ。

うちの親父とひさしぶりに碁を打ったが、全く勝てる気がしない。日本語さえままならない重い障害を負った親父に、まだ僕は勝てないのだ。

そう考えると、僕に言えることはたいしたことないなあ。

明日からの授業を考えると憂鬱だ。

僕に言えることはたぶんこれしかない。

 

 「人の真似をするな。相手を吃驚させることに全力を上げろ。そういうコードを書け」


それくらいのものだ。

馬に大企業での処世術を教えるというか、アメンボから水泳を習うというか、どちらにせよなんとも的外れなことを言うだけで終わってしまいそうな気がする。

いいのか、本当に。id:mkusunok

*1:個人的には、自分の思うようなところに入れないだけなんだから問題でもなんでもない、ただのガキのワガママだろう

*2:電通大の先輩諸氏は夜間学部とはいえ一流企業に就職する人が多かった

*3:ちなみにこの二つは試験だけで取れる