発信箱

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

発信箱:カメラの前の死=坂東賢治(北米総局)

 7月にニューヨークの人権団体が公表したビデオが米国民に大きな衝撃を与えた。ブルックリン地区の公立病院の待合室で倒れた患者が誰にも助けられないまま、死んでいく姿が防犯カメラの映像にとらえられていたからだ。

 死亡した黒人女性(49)はジャマイカ国籍で無保険。6月中旬、精神科病棟の待合室で24時間近くを過ごした後、早朝に椅子から崩れ落ちるように床に倒れ、そのまま死亡した。脚にできた血栓が死因とみられている。

 テレビニュースで映像を見たが、女性は倒れた直後にはからだを動かしていた。警備員らが女性を発見しながらも救助しようとせず、1時間近く放置していたことも映し出されていて、やりきれない気持ちになった。

 昨年公開されたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シッコ」でも取り上げられていたが、公的な皆保険制度が存在しない米国では保険に入っていない患者の治療は後回しになりがちだ。

 「医療の質は金次第」という問題点は米国民自身が一番わかっている。ハリス・インタラクティブ社が7月に公表した世論調査結果によると、欧米10カ国の中で自国の医療保険制度に対する満足度が最も低いのが米国だった。

 医療保険制度改革は大統領選のテーマでもある。医療にも自助努力、自己責任を求め、公的な財政負担の増加を嫌う保守派の主張もわからないではない。しかし、病院内で放置され、死亡する患者の姿には守るべき最低限のセーフティーネットさえ危機にひんしている実態が表れているのではないか。

毎日新聞 2008年8月4日 0時09分

発信箱 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報