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社説:豊洲市場報告書 都は「移転ありき」を改めよ

 東京都が築地(中央区)にある中央卸売市場の移転先に決めている江東区豊洲の東京ガス工場跡地の土壌汚染対策を検討してきた専門家会議が、最終報告書をまとめた。

 予定地全域で旧地盤面から地下2メートルまで土壌を入れ替え、それより下についても地下水を環境基準内に維持するなどの対策を講ずれば、健康被害や食の安全は守ることができるという内容だ。

 都はこれを受けて、土壌汚染対策を策定し、市場移転に向け動き出す方針だ。

 それでいいのか。都にはその前にやるべきことがあるのではないか。

 専門家会議の委員も指摘しているように、豊洲の移転予定地についてリスクコミュニケーションが行われていない。今回の報告書に対しては汚染のとらえ方、地下水浄化や地下水位管理、液状化に対する考え方などの点で批判もあるが、議論する材料にはなる。

 計画地は東京ガスのガス工場跡地であり、もともと汚染は想定されていた。01年12月に移転決定した都は、東ガスが調査に基づき汚染対策を実施した後に、建設計画を具体化する手はずにしていた。

 しかし、東ガスの調査では高濃度の汚染が見つかり、築地市場関係者を中心に移転反対の動きが高まり、都は対応を迫られた。

 東ガスの調査より深い土壌や地下水の汚染実態は、専門家会議の設置後に実施された詳細調査やその後の絞り込み調査でようやく明らかになった。

 都が築地市場の豊洲移転を正式に進めることになれば、東京都環境確保条例に基づく調査も必要になる。前国会で参院を通過し衆院で継続審議となっている土壌汚染対策法改正案が次期国会で成立すれば、それに伴う対策も必要になる。

 そこで、まず、都はこれまでに明らかになった汚染状況や報告書が提言した対策で、本当に安全なのかなどを、関係者や都民に正しく伝え意見交換する、リスクコミュニケーションを行うべきである。

 その際には、「移転ありき」で臨んではならない。専門家会議委員も会議後の意見交換などで「移転ありき」で報告書を作ったのではないと発言している。都はその意を酌むべきだ。

 また、都が豊洲での計画を決定する際に実施した戦略的環境アセスメントは、同一地点で構築物のレイアウトなどを変えて代替案としたが、内容的に不十分である。戦略アセスというのであれば、築地での再開も含め数地点を対象にすべきだ。

 当初の移転日程から遅れることは確実である。また、豊洲にこだわれば1000億円を超えるともいわれる汚染対策費をつぎ込まなければならない。豊洲移転はそうまでしてやることなのか。築地の再開発や豊洲以外の新地点を探す方が生産的ではないのか。

毎日新聞 2008年8月4日 東京朝刊

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