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【第40回】 2008年08月01日

TBSが旧ソニープラザ買収
物販事業に走るテレビ局の台所事情

――広告収入低迷で岐路に立つ地上波放送

 「ソニー」というブランドがなくても、安定した収益を得られる見通しがついたため、日興プリンシパルは他社への売却に踏み切った。その相手が物販事業を強化したいTBSであったわけだ。そういう面では、スタイリングライフとTBSは理想的な組み合わせといえる。

上場からバイアウトへ
投資ファンド側の事情も

 これまで、プライベートエクイティ投資というのは、旧長銀(現新生銀行)や旧日債銀(現あおぞら銀行)のように、主に上場を目指すものが多かった。しかし近年、上場よりも他社への売却が増えている。その背景には、内部統制の義務化など上場時のハードルが上がってことに加えて、たとえ上場できたとしても、証券市場の低迷でかつてのような高い株価がつくことはなく、ファンドが持つ株式の全部を市場で売却することは不可能になってきているという状況がある。上場しても思うように投資資金が回収できない場合が多いのである。

 そこで、「そんな苦労をしてまで上場するよりは、シナジー効果の上がる他の事業会社を見つけ、そこに売却したほうが効率的だ」、と投資ファンド側の思惑も変わった。つまり、「上場」から「バイアウト」へ、投資のEXIT(出口)自体が変化しているのだ。

 まさに日興プリンシパルはそのEXITを、2005年に買収防衛策を手伝い、旧知の間柄となったTBSに求めたことになる。TBS側も物販事業の強化をしたいことから、両者の思惑がぴったり一致した格好だ。

岐路に立つ地上波放送
物販事業が救世主となるか?

 スタイリングライフを手に入れたTBSは今後、同社と協力し、番組と連動した商品・通販番組開発を進めていくことになるだろう。減少しているとはいえ、何千万人もの視聴者を抱えており、その視聴者に対して「モノ」を売っていくことは非常に効率的だといえる。ある意味で、この物販事業が視聴者からお金をとるという新たなビジネスモデルになるかもしれない。

 良質なコンテンツを「無料」で提供してきた地上波放送。それを支えてきた広告収入の減少によって、地上波放送事業は岐路に立たされている。「物販事業」がその窮地を救う救世主となるのか――。TBSをはじめ、民放各局の今後の事業展開が気になるところである。

 

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執筆者プロフィル

写真:永沢徹

永沢徹
(弁護士)

1959年栃木県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後の84年、弁護士登録。95年、永沢法律事務所(現永沢総合法律事務所)を設立。M&Aのエキスパートとして数多くの案件に関わる。著書は「大買収時代」(光文社)など多数。永沢総合法律事務所ホームページ

この連載について

弁護士・永沢徹が、日々ニュースを賑わす企業買収・統合再編など、企業を取り巻く激動を、M&A専門家の立場からわかりやすく解説していく。

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