『グローカル』636号より
六月二二日から二五日にかけてインドネシアのメガワティ大統領が「国賓」として来日する。小泉首相が昨年一月に東南アジアを訪問した際、来日を招請したという。小泉との会談をはじめ、山崎拓を会長とする日本インドネシア友好議員連盟や経済界との懇談なども予定されている。報道によれば、アジア・アフリカを対象とした「途上国」支援でインドネシアと日本が連携することを内容とした共同コミュニケ「日本−インドネシア・パートナーシップ・プログラム(仮)」が発表されるという(六月十四日、日経)。
このイベントにインプットされている影の政治プログラムは徹底して隠蔽されている。よりによって(!)この時期に演出される政治ショーは、現在進行形のインドネシア国軍によるアチェの人々に対する戦争犯罪を公然と認知するものに他ならない。日本の市民に問われているのは、権力者による醜悪なパフォーマンスの仮面を剥ぎ、その正当性を揺さぶり、「パートナーシップ」を寸断することではないか。
五月一八日、メガワティ政権は、インドネシア西部スマトラ島北端のナングロ・アチェ・ダルサラーム州(以下「アチェ州」)の独立をめざす武装組織である自由アチェ運動(GAM)との間で、昨年十二月九日に結ばれた和平協定(敵対行為停止合意:CoHA)を一方的に破棄した。同政権は和平交渉において、統一国家、特別自治といった、CoHAの枠組みにはない政治的選択をGAMに強要し、一方的武装解除と独立要求の放棄を迫り、アチェ州内に国軍を増強していた。そして、翌一九日午前〇時、アチェ州に軍事非常事態宣言(軍事戒厳令)を布告し、国軍はGAMの「掃討」「せん滅」を目標とする大規模な軍事作戦を開始した。一九七五年のスハルト政権による東チモールへの軍事侵略以来の規模とされ、約四万五千人に及ぶ国軍・警察部隊が投入されている。
東チモールがインドネシアによる侵略と不法占領から脱し独立することに反対したメガワティは、「統一国家」維持では国軍と共通する強硬派である。この軍事作戦は、来年実施される総選挙と初の大統領直接選挙をにらんでその指導力を誇示し、再選を果たすための「起死回生の賭け」でもある。作戦の「成功」を勝ち取るためには、その正当性の確立、すなわち「正義の戦争」を内外に印象づけることが不可欠となる。インドネシア政府は元々「アチェ紛争は内政問題」として国家主権を盾に第三国の「干渉」を拒否してきたが、米ブッシュ政権の「対テロ戦争」戦略が今回の軍事作戦発動の敷居を低めることに貢献した。
政府内部で「イラク戦争で武力による問題解決を実践した米国などに、インドネシアを止める権利はない」(国軍関係者)との意見が強まり、国軍の最強硬派リアミザード陸軍参謀長は開戦前、有力週刊誌「テンポ」に「『降伏するか、さもなければ攻撃する』。米国はイラクでそれを実行した。断固とした行動が必要だ」と語っていた。「暴力の連鎖」の作動である。
政府は今回の軍事作戦を「包括的作戦」と呼び、人道援助や統治機能の回復をも掲げることで人権侵害の印象を薄めることを狙うとともに、報道統制を行ったうえで取材記者全員に記者登録を義務づけ、軍の管理下の「従軍取材(エンベッド方式)」を導入している。イラク戦争の米軍を意識していることは明らかだろう。さらに軍は六月三日、住民に暴力をふるい重傷を負わせたとして兵士三人を訴追し軍事法廷にかけた。軽い刑が予想される暴行で「人権配慮」の姿勢を演出するものであり、内外メディアの軍による住民虐殺への批判をかわそうとする姑息なパフォーマンスに他ならない。
以下、本紙に掲載
・深刻化する住民被害
・虐殺の共犯者たち
・国軍と大国の武器コネクション
・「民衆の安全」求める市民の声を