(平成9年12月20日)
許永中 謎の失踪!!

その核心を衝く準備書面 全文公開

新井組(株)株券 大量詐取事件の争点


 12月23日、東京新聞 朝刊 社会面が「脅しと甘言、企業を手玉」、「保釈取り消しから2ヶ月‥‥依然行方不明、許永中被告」、「保釈金6億円没収」との見出しで新井組(株)関連の手形賠償に伴う事件の経緯を詳細に報道している。

 本件に当局が本腰を入れているのは新井組の株に関してである。この株はもともとイトマン事件で許氏とともに刑事被告人となった伊藤寿永光氏が所有していたが、担保権行使でキョートファイナンスのものになり、そのうちの1000万株を180億円でM&Aで知られる石橋産業に譲渡することになっていたのに、株は渡されなかった。
 詐欺であるとして石橋産業サービスは刑事告訴、東京地検刑事部が内偵捜査に入ったのだ。

 キョート・ファイナンスが所有していたはずの株は、誰がいつ何の目的で持ち出したのか、その株の行方と仕手行為との因果関係などは一体どうなっているのか。

 今回、検察がこの問題を解明することになり、「石川達紘検事正自ら檄を飛ばしている」(司法記者)とあって、いつの間にかしぼんでしまう警察やSECの捜査とは異なる徹底的な捜査となることが期待されている。
 また、この新井組株問題には、許永中氏やその顧問である田中森一弁護士も絡んでいるだけに、「こればかりは検察でなければできない」ともいわれている。
 さらに検察による解明が進めば、雅叙園観光問題、日本レース株も絡むホテル三叙園の上野富吉氏失踪事件などの警察捜査にも拍車がかかるとみられており、その成り行きが大きく注目されようとしているのだ。

 そんな中、当方にその争点と思われる裁判の準備書面が寄せられた。
 そこで当ホームページではその全文を公開し、事件の核心を追ってみることにした。



準備書面


原告 株式会社エイテ・アール・ロイヤル
被告 株式会社キョート・ファイナンス 

 右当事者間の平成9年(ワ)第922条約束手形返還請求事件について、原告は左記の通り主張する。

平成9年7月28日
    右被告代理人
           弁護士 神 洋明
           弁護士 渡辺 潤

京都地方裁判所
  第4民事部合議係御中


第1 被告の答弁書記載事実に対する認否
  1. 被告答弁書・第3被告の主張について

    1. 同1記載事実について

      同記載に添う書面があることは認めるが、実体は不知。

    2. 同2記載の事実について 原告、被告及び第三企画間で、第三企画の法的地位を承継する旨の協定書が作成されたこと、及び手形が振り出されたことは認めるが、その余は否認する。その実体は後述する。

    3. 同3記載事実について 新井組株式270万株を原告に交付したとの事実は否認し、その余の外形的事実は認める。

    4. 同4記載事実につて記載事実は認める。

    5. 同5項は争う。

  2. 同第4について

    1. 同1、2記載の事実は否認する。

    2. 同3項は争う。
第2 被告の主張に対する反論

  1. 被告の主張の要約

    1. 被告は、訴外株式会社第三企画(以下「第三企画という)に対し、平成7年4月26日から同年12月13日迄の間に4回に亘り、新井組株式を合計715万株譲渡し、かつ同株式を引き渡したところ、平成8年4月18日、原告、被告及び第三企画との間で、原告が右第三企画の株式譲受人等の法的地位を承継したから、新井組株式715万株は、原告が受領したことになり、また同8年6月5日、被告は原告に対し新井組株式270万株を譲渡し、同株式を交付した。 従って右株式全部を原告に引き渡し済みである。

    2. 更に被告は、仮に原告の本件株式譲渡契約解除に理由があるとしても、

      1. 平成8年6月5日新井組株式270万株を譲渡した際に、同株券を被告は原告に交付されている。

      2. 平成8年4月23日、被告は原告に対し、石橋産業株式14万2650株を、同年4月18日に締結した原告、被告及び第三企画間の協定書により。原告が新井組株式715万株の支払のために交付した約束手形(金額130億8400万円)に補助金加入石橋産業が裏書きする事を条件に、交付している。 従って被告は本件手形を含めて三枚全部返還するには原告が被告に対し、右新井組株式270万株、及び石橋産業株式14万2650株を同時に返還することを求める。 というものである。

  2. 原告の反論の要旨

    1. 本件事件の仕掛け人は訴外許永中(以下「許永中」という)であり、被告は許永中と一体となり若しくは共謀して、本件を引き起こしたものである。

    2. 原告は、被告及び第三企画から新井組株式の引き渡しを受けたこともないし、現物を現認したこともない。

    3. 原告と被告は、平成8年10月25日付で、合意書及び株式等保管委託契約書を作成し、その書面中で従前の原告及び被告間の新井組株式譲渡契約の内容を整理し、株券の特定、その保管方法等について確認している。 同書面より譲渡対象の株式番号は特定され、被告が同株式を代金決済までの担保として保管し、さらに被告は同株式を被告の監査役である田中森一弁護士に保管を委託した。

    4. ところが被告は、右許永中及び田中森一弁護士と共謀して、右株式の保管義務を怠り、既に右新井組株式の大半を他に処分してしまったものである。

    5. また原告は、被告から新井組株式270万株及び 石橋産業株式14万2650株を受領したことはない。

    6. 原告は、許永中から株式を担保に金銭の借用を求められ、その結果原告は許永中に対し、平成8年3月29日に新井組株式180万株を担保に金25億円を、また同年4月26日に新井組株式225万株及び石橋産業株式14万2650株を担保に金60億円を、それぞれ石橋産業に用立てて貰って貸し付けている。 しかし、許永中はその後、右担保提供中の新井組株式150万株をセザンヌの絵画1枚と差し替え、更に新井組株式250万株を右借入金の一部返済に充てるために処分すると称して、いずれも持ち出している。 しかも許永中は右貸付金を金20億円しか返済せず、金65億円は未だに返済していない。 そこで、右貸付金の担保として残った、新井組株式5万株、セザンヌの絵画1点、及び石橋産業株式14万2650株については、原告らは引き続き担保として保管中である。

    7. 以下のとおり、被告の主張は、何ら理由のないものである。

  3. 原告の主張の詳細

    1. 新井組株式の売買契約締結に至った経緯

      1. 原告の代表者林雅三氏と補助参加人石橋産業の代表者石橋浩氏は婚姻関係にある(林氏の実妹が石橋氏の妻であり、石橋氏が林氏の義弟にあたる)。

      2. 補助参加人石橋産業は、石橋一族が全株式の殆どを所有する閉鎖会社(発行済株式総数200万株)であるところ、先代社長の訴外石橋健蔵氏の他界後、同氏の相続人が13名おり、前記石橋氏を含めた異母兄弟間において、同社の経営権をめぐって確執があった。
        結果的には、前記石橋浩氏が補助参加人石橋産業の代表者に就任したが異母兄弟間で訴訟沙汰になることも多く、過恨を残すこととなった。 そうした状況のもと、補助参加人石橋産業の関連会社から追われる形となった異母兄弟の一人が、巻き返しを図るべく、散逸していた他の兄弟姉妹の株式の一部を事実上かき集め、同人が取得した株式が約24万2650株にまでなったという時期があった。
        その後、九州、広島の暴力団関係者の手に渡っているという情報が補助参加人石橋産業に伝わってきた。

      3. 平成6年2月ころ、右24万2650株のうち10万株はある会社が貸金の担保として保有していることが判明し、買い取りを申し入れたが、買取金額が折り合わず、交渉は遅々として進まない状況にあった。

      4. 平成7年暮れ、暴力団関係者及び大阪弁護士会所属の田中森一弁護士が補助参加人石橋産業を訪れ、前記石橋産業株式のうち14万2650株はすでに右暴力団関係者が入手しているが、買い戻さないかと申し入れて来た(甲第17号証・預り証)。
        しかし、補助参加人石橋産業としては、条件が折り合わず、同時点では具体的交渉を行わなかった。

      5. 平成8年1月になってから、許永中が林氏に接触してきた。 許永中は石橋産業株式を暴力団関係からのサルベージにすでに数十億円を使っているなどとして、前記14万2650株(時価相当額約5億円)を150億円で引き取れと申し入れて来た。
        しかし、、原告及び補助参加人(以下「原告ら」という)としては到底支払うことができる金額ではないと断わったが、その一連の接触のなかで許永中は、更に広域暴力団山口組を三団体待機させている、いつでも乗り込ませることができるなどと脅す一方、150億円の支払いができないのなら、当面次のような案に協力しろという申し出をしてきた。

        1. 許永中が保有する株式会社新井組の株式(一部上場株式)1120万株を1株3000円で買い取った形にして預って欲しい。

        2. 右新井組株式は後日、許永中が買い戻す。

        3. 買取資金もしかるべき金融機関から許永中が流し込む。

        許永中は原告らに対し、右案に協力しない場合は、許永中が確保している石橋産業株式は、暴力団関係者に譲渡することも示唆した。 したがって、原告らとしては、選択の余地はなく、石橋産業株式を取り戻すためには、許永中の話に乗るしかなかった。

      6. さらに、許永中から「石橋産業の株式をサルベージするのに金がかかっている。とりあえず25億円を用意してくれ。金は7月末日までには必ず返す。担保として新井組株式を180万株担保に入れる。」と借入の要求がなされた。 原告らは、許永中が現実に担保を提供したことから、同人の話を信じ、平成8年3月29日、原告は石橋産業から資金の提供を得て、許永中に、金25億円の預金小切手を交付し、同金額を貸し付けた(甲第18号証・借入書)。

      7. さらに加えて、許永中は、新たに新井組株式225万株と石橋産業株式14万2650株を担保に入れるので借増しをさせろと要求してきたため、平成8年4月26日、原告は補助参加人石橋産業が用意した60億円を許永中に貸し付けた(甲第19号証・借用書)。
        なお許永中は、石橋産業の株式を原告を経由して補助参加人石橋産業に交付していたが、新井組株式については、平成8年7月、このうち150万株分を担保の差し替えと称して引き上げ、これに対し、セザンヌの絵画1点を原告らに交付した。その担保価値は現在調査したところ、2000万円程度に過ぎなかった。
        また、同年9月、原告らが許永中に右各資金の返済を迫ったところ、同人は「どうしても返済しろというなら、担保に入れてある新井組株式を一旦戻してくれ。後日改めて差し入れる。」と称して、原告らから新井組株式250万株を引き上げた。しかしながら、許永中は、その後20億円しか返済して来ていないし、右250万株も戻して来ない。
        従って、許永中は被告らに対して、現在65億円の貸金債務を負っている(甲第20号証・念書、甲第21号証・確認書)が、これに対し、原告らが有する担保は、石橋産業株式14万2650株、新井組株式5万株と絵画1点に過ぎない。 よって、石橋産業株式14万2650株は、許永中に対する貸付金の担保として保管しているものであって、被告との本件株式譲渡契約とは関係ないものである。

      8. 右の貸付金の話とは別に、前(5)号の新井組株式の引き取りの話が進み、許永中の指示で、株式の所有者と称する被告との間で、平成8年4月18日付で715万株の新井組株式について譲渡予約契約が締結された(1株の単価金1830円、代金総額金130億8450万円)。
        右株式の名義人は、総て許永中の関係企業である株式会社協和綜合開発研究所(代表取締役伊藤寿永光)であるところ、許永中の指示で右譲渡予約契約は、被告と訴外株式会社第三企画の間で既に締結されていた右株式譲渡契約予約上の第三企画の買主たる地位を原告が承継する形式がとられたものである。(甲第5号証・協定書、同6号証・株式譲渡予約契約変更確認書)。(なお、この平成8年4月18日は、後日具体的な話が出され書類が作成された後にバックデイトされたものである)。
        なお許永中は、被告も第三企画も自分が実質的なオーナーと称していた。

      9. また許永中の指示で、平成8年6月5日、原告と被告間で、新井組株式270万株について、更に譲渡予約契約を締結した(1株の単価金1790万円、代金総額48億3300万円、甲第7号証・株式譲渡予約契約書)。

      10. 前記各株式譲渡予約に際して、許永中は石橋氏及び林氏に対し、「キョート・ファイナンスは自分とイコールであり、譲渡予約は形だけのものだ。ついては、形式を整えるため、形だけでも手形を入れて欲しい。決済資金は自分が準備する。この手形を取り立てや第三者に回すことは絶対にないから心配するな。」また、「右新井組株式は、前記田中弁護士が保管している」と言明した。それ故原告は新井組株式の引き渡しを受けたこともないし、特段確認もしていない。
        また、許永中は、この時期の前後に数回に渡り、総理大臣経験者、現役閣僚、一部上場企業の有名社長などを電話1本で呼び寄せ、石橋氏及び林氏と引き合わせるなどしたため、原告らは同人の言を信じきっていた。

      11. このような状況の下、平成8年6月13日、右譲渡予約契約に基づき株式譲渡の本契約を締結し、原告は補助参加人石橋産業の裏書を経て、被告に対し、各譲渡代金として、形式的に左記約束手形2通を振り出した(甲第1号証・株式譲渡契約書、同第8号証の1・有価証券取引書、同2・納付書・領収書、同9号証の1・有価証券取引書、同2・納付書・領収書)。

        ア 額面         金130億8450万円
          振出人        原告
          受取人及び第一裏書人 補助参加人 石橋産業
          第一被裏書人     被告
          支払期日       平成8年8月30日

        イ 額面         金48億3300万円
          振出人        原告
          受取人及び第一裏書人 補助参加人 石橋産業
          第一被裏書人     被告
          支払期日       平成8年8月30日

      12. 平成8年8月30日になり、許永中は林氏及び石橋氏に対し、手形の決済資金が用意できないので、前項記載の約束手形2通を支払い期日だけを同年10月31日に変更した約束手形に書き換えて欲しい旨要求してきた。
        原告らは、右要求に応じ、支払い期日を平成8年10月31日とする金130億8450万円及び48億3300万円の約束手形2通を振り出した。
        右手形書換に伴い、前記株式譲渡契約書も変更された(甲第2号証・株式譲渡契約変更確認書、同第10号証の1・約束手形返還受領書、同2・約束手形受領書)。

    2. 本件約束手形振り出しの経緯

      1. そうしたところ、許永中は、原告に対し前記約束手形2通の決済期日が迫った平成8年10月25日、同約束手形2通を再度、左記の約束手形3通に書き換えて欲しい旨要求してきた。
        約束手形の決済金は、許永中が10月末日までに用意することになっていたが、許永中の右書換要求を断わろうとすると、許永中は150億円を支払えと脅迫するという状況であったため、右要求に従う他なく、また最悪の場合は、株式譲渡契約を有効なものとして受け容れ、新井組株式が入手できた時点で同株式を売却しね資金回収を図ることもやむを得ないと判断し、右要求に応じて、本件約束手形を含む左記の約束手形ア通を振り出した。

        ア 額面         金15億円
          振出人        原告
          受取人及び第一裏書人 補助参加人 石橋産業
          第一被裏書人     被告
          支払期日       平成9年4月30日

        イ 額面         金15億円
          振出人        原告
          受取人及び第一裏書人 補助参加人 石橋産業
          第一被裏書人     被告
          支払期日       平成9年9月30日

        ウ 額面         金149億1750万円
          振出人        原告
          受取人及び第一裏書人 補助参加人 石橋産業
          第一被裏書人     被告
          支払期日       平成9年12月31日

        本件約束手形は(前記ア)は、かかる経緯に基づいて振り出されたものである。 右手形書換に伴い、前記株式譲渡契約書も変更された(甲第3号証・株式譲渡契約変更確認書)。

      2. その後、10月28日になって、前号の株式譲渡契約変更確認書の作成に伴い、これまでの原告及び被告間の譲渡契約を整理し、株式の所在を含めて事実関係を再確認するため10月25日付で、合意書及び株式等保管委託契約書が作成された(甲第11乃至12号証)。
        合意書 等により、次のことが確認された。

        1. 譲渡の対象の株式は、同合意書添付の別紙株券目録記載の記番号により特定された新井組株式985万株であること。

        2. 譲渡代金は、総額で金179億1750万円であり、被告は、前号記載の約束手形3通ののうち、平成9年4月30日の本件手形金決済と同時に右株式82万4620株、同9月30日の手形金決済と同時に82万4620株、同12月31日の手形金決済と同時に820万0760株を、前記田中森一弁護士から返還を受けて原告に各交付すること。

        3. 譲渡対象の株式は、原告が右各約束手形支払いの担保として被告に交付し、被告は、さらに田中森一弁護士に保管を委託すること。
          すなわち、売買対象の新井組株式は、原告が所持したことはなく、田中森一弁護士が保管している現状を明確にし、原・被告間では現実に引渡をすることなく、被告が担保としてそのまま受け取り、これを田中森一弁護士に保管委託し、被告は、同弁護士を通じて、原告のために、右株式を保管する義務を負うという形態であることを確認したのである。
          従って本件株式は被告の管理下に保有されていたものである。

      3. なお許永中はその後も、配下の者を石橋産業に出向かせ、資産調査という名目で会社内に入り込む等、原告らに対し有形、無形の圧力をかけ続けた。 許永中のやり方は、手を変え、品を変え、次から次へと様々な要求を押し付け、すでに多額の金銭的負担をしている補助参加人石橋産業及び原告に対し、これまでの損失をカバーするには、許永中の提案に乗らざるを得ないように仕向け、あるいは150億円の話を蒸し返し、許永中の要求を断わるならば同額を支払えと脅迫するなど、巧妙かつ悪質なものであった。

      4. ここに至って、原告らは、このような許永中の理不尽な動きを制止すべく、被告の実質的なオーナーとも言われる山段芳春に面談したところ、右山段は、許永中と一定の距離があるかのように装って、イトマン事件の弁護活動などで許永中に対する影響力を持つ弁護士であるとのふれこみで、被告訴訟代理人らを含む4名を補助参加人石橋産業の顧問弁護士に推挙した。そこで補助参加人石橋産業は同弁護士と顧問契約を締結した。そのうえで、平成9年1月6日、右山段、同4名の弁護士、被告会社関係者、被告代表者ら及び原告訴訟代理人弁護士神洋明を含む原告らの東京における顧問弁護士が、京都市において顔合わせをした。
        また、平成9年2月上旬の新井組株式の暴落という事態に及んで、2月8日、大阪市において、原告代表者らと神弁護士らが、被告訴訟代理人を含む4名に対し、事の顛末を話してアドバイスを求めると、被告訴訟代理人らは、これに応えて当日は理解を示した。しかし、2月12日、原告らが前記山段に対し、補助参加人石橋産業が許永中に対する告訴も辞さない意思を表明するや、被告訴訟代理人らは補助参加人石橋産業の顧問弁護士の辞任届けを送付してきた。爾来、原告らに敵対する行為をとり続けてきている。 なお、右2月6日の会合においては、被告訴訟代理人らは、前記田中森一弁護士の本件売買対象の新井組株式の預り証の写しを原告ら及び補助参加人訴訟代理人神弁護士らに示して、新井組株式は田中弁護士が保管していると語っていたものである。

    3. 本件株式譲渡契約解除の経緯

      1. ところが、本件譲渡状の対象になっている新井組株式は、最初の株式引渡時期及び本件約束手形金の支払時期の前である平成9年2月には、同株式が大量に株式市場売買されていることが判明した。(甲第13号証・新聞記事)。

      2. また、補助参加人石橋産業は、本件株式譲渡契約の他にも、許永中の要求により、株式信用取引の担保として、補助参加人石橋産業所有の株式9銘柄を同人に預けたが、許永中はこの株式の一部を勝手に処分したほか、都証券株式会社に担保提供して、補助参加人石橋産業名義で株式の信用取引を行った。その取引の中で許永中は、平成8年12月5日から翌年2月4日までの間、総べて新井組の株取引のみ行い、補助参加人石橋産業名義で買玉を建てながら、許永中の関係会社を使って売方にまわり、総数357万7500株、いわゆる「バイカイ」をふるっている。
        この取引でも、多額の担保不足が生じ、許永中は、補助参加人石橋産業には損が出るような迷惑はかけないと約束しながら、何の手当もしなかったため、補助参加人石橋産業は前記都証券に対し、名義上の責任をとり、信用取引された新井組株式を全部現引いた。 ところが、補助参加人石橋産業が右現引きした株式357万7500株のうちには本件新井組株式売買契約に明記された株式196万8200株(なお、同株式は1000株券から100株への一部切替があったため、照合ができないものも多数ある。)が入っており、被告は許永中とはかって、新井組株式を処分していることが判明した(甲第14号証・株券チエック結果)。

      3. 更に、会社四季報によれば、平成7年12月31日現在、前記協和綜合開発名義の株式は990万株余のところ、同8年12月31日現在、協和綜合開発名義の株式は213万株余に減少している(甲第15号証の1、2・会社四季報)。

      4. そこで原告は被告に対し、本件株式の所在を確認するよう求めると共に、前記田中森一弁護士に対して再三文書により株式の保管の有無の問い合わせをしたが、何等回答がなされなかった(甲第16号証の1乃至6・通知書、配達証明)。

      5. 従って、被告は株式の発生として負担する株式引渡義務若しくは前述した株式の保管義務を怠り、これを手放し、所持していないことが明らかとなった。

      6. このように、被告が前記株式保管義務に違反したため、前記株式譲渡契約における原告及び被告間の信頼関係は著しく破壊され、本件約束手形を含め3回の手形金決済に応じることは到底できない状況となったものである。 即ち被告が売買の対象とされた特定の株式をその保管義務に違反して、同株式を大量に処分したことで、被告が原告に対して約定どおり985万株を提供することができなくなったことが明白となったものである。 従って、被告の右保管義務違反は、原告との右株式譲渡契約における信頼関係を著しく破壊したものであり、契約違反である。かかる契約違反にかかわらず、本件譲渡契約をそのまま継続して原告に対し同契約上の義務を存続させることは、信義則に反することになる。 よって原告に右契約の解除権が発生したものである。

      7. そこで原告は被告に対し、右事実が判明したので同年3月13日到達の書面をもって、同書面到達後一週間以内に前記新井組株式の株券を所持していることを明らかにすることを求め、これに応じない場合には、本件株式譲渡契約を解除する旨通知した。(甲第4号証の1・内容証明郵便、同2・郵便配達証明)。
        しかしながら、被告は右株式の所持を右期間中に何ら明らかにせず、同月20日が経過した。
        従って同日の経過により、また、前述のように補助参加人石橋産業の手元に現引きした株券の中に本件譲渡対象の記番号を有する株券の一部が存在することにより、被告の全株式の引渡義務は確定的に履行不能となったものである。

    4. よって、被告の債務不履行(保管義務違反及び履行不能)を理由として、平成9年3月20日の経過をもって、本件約束手形の原因関係である株式譲渡契約は解除され、原告らには本件約束手形金の支払い義務はなく、また、前述した如く原告は被告から新井組株式250万株を受領したこともないし、石橋産業株式14万2650株を受領したこともないので、被告の主張何等理由のないものである。
    以上

    注)文中「左記」は「下記」、「右記」は「上記」と読み替えて下さい




    合意書


     石橋浩を甲とし、野村こと許永中を乙として、甲乙間において下記の通り合意が成立したので、後日の証として、各自署名押印の上、本合意書一通を作成し、立会人 弁護士田中森一においてこれを保管することとする。



    第1条
     甲乙は互いの信頼関係と石橋産業株式会社グループの発展的展開を共通の目標とすることを相互に確認し合い、本合意書を作成する趣旨とする

    第2条
     本合意書作成の日をもって、甲は乙に対して石橋産業株式グループのすべての会社(次条以下記載の会社は除く)の業務全般の運営・統括を乙に一任する。

    第3条
     甲の従来の地位のうち若築建設株式会社の代表取締役会長としての地位は、甲がその地位にあることを希望するまで間はそのままとする

    第4条
     石橋産業株式会社グループのうち、甲が指定する数社を甲のものとすることを決める

    第5条
     乙は上記第2条の対価として甲に対し金100億円を支払うことを確認し、甲は自己の義務を履行する保証として甲が所有する石橋産業株式会社の全株式を乙に譲渡する

    第6条
     金100億円の支払の時期・方法は甲乙協議の上、別途書面を作成することとする

    第7条
     第5条記載の株式(株券)は乙が金100億円の履行を完了するまでの間、甲はこれを立会人 弁護士 田中森一ら保管及び株式権行使を委任する

    第8条
     乙が金100億円の支払いを完了したときに、第5条記載の全株式が乙に譲渡された効力が発生することを甲乙確認する

    第9条
     甲乙は今後石橋産業株式会社グループの運営に関する重要な事項について、立会人ら関係者を交えて協議した上で行うことを確約する

    第10条
     (財)石橋奨学会の人事については甲の専権とし、乙は意見を述べることはできても、その権限はないものとする

    第11条
     甲乙間はお互いに誠意をもって協力し合うものとするが、争いが生じた場合は立会人 弁護士 田中森一の仲裁に従うこととする。

    以上

    平成8年11月20日

    公証人 宮本富士男役場  登記第壱七四八四号

    甲   石橋 浩
    乙   野村こと 許永中
    立会人 大阪市中央区北浜1-9-9
        田中 森一
    立会人 東京都新宿区下落合3-22-20
        林 雅三