「国民生活重視、国民目線の政治のために人心を一新した」と福田康夫首相は言う。生活者との対話を重視した、わかりやすい政治。その真価は来年創設される消費者庁の在り方にも表れる。
中国製ギョーザ中毒事件や絶え間なく露見する食品偽装、石油高騰に伴う食料品や生活資材の値上げ…。暮らしの中に不信と不安が募っている。
「生活者重視」は福田内閣発足以来のテーマであり、それにより「明るい未来への希望」をひらくのが、「低炭素社会」と並ぶ福田改造内閣の「目玉」である。
これほど生活者重視をうたうなら、一つ大きな疑問がある。食品安全委員会の消費者庁移管は、なぜ見送られたのか。
来年創設される消費者庁は、これまで各省庁にまたがっていた消費者行政を一元化し、消費者被害の防止や救済を迅速かつ強力に進めるのが狙いである。
食品安全委は牛海綿状脳症(BSE)が社会不安を招いたため、二〇〇三年に創設された。七人の専門家と専門調査会で構成され、食品の安全性を評価し、評価結果に基づいて講じるべき施策を閣僚に勧告できる。最近は、クローン牛や鍋などに含まれる鉛の健康影響評価も手掛けている。
消費者庁に移管されると消費者寄りになりかねず、科学的評価の中立性を保てないというのが、移管見送りの理由である。根拠が薄く、首相の方針に反するような印象さえ受ける。
科学的評価さえ出れば、生活者の不安が取り除かれるわけではないだろう。例えば、厚生労働省は「生後二十カ月以下の牛を検査対象外としても問題ない」という食品安全委の勧告に基づいて先月末、二十カ月以下の国産牛に対する検査費補助を打ち切った。
だが、多くの県や市は、それではまだ不安な消費者心理に配慮して全頭検査の自主的な継続を決めている。暮らしの不安をぬぐうには、専門家による分析結果を消費者にわかりやすく説明し、消費者側の反応や要望を施策に反映させる「仲介者」が必要だ。
その役割を担うのが消費者庁だとすれば、やはり、食品安全委も含めた一元化が望ましい。
消費者庁設置法案は、次の臨時国会に提出される。もう一度国民の目の前で、一元化問題も含めて議論を尽くすべきである。
成り立ちが不透明では、生活者はそこに希望を見いだせない。
この記事を印刷する