私たちの現在:日本の女性と子どもの人権についてのレポート

ドメスティック・バイオレンス

【英訳はこちら】
執筆・東京家族ラボ/池内ひろ美

               

■およそ20人に1人が「命の危険」を感じている

日本では、1998年頃から「DV=ドメスティック・バイオレンス」という言葉がマスコミで喧伝されはじめた。それまで、家庭内での暴力は日本的な恥の文化に隠されており、夫が妻に暴力をふるう、あるいは家族の一員が家庭内で暴れているといったことは外に向かって語られることはなく、ひた隠しに隠されてきたものである。

DVを日本語に直訳すれば家庭内の暴力であるが、日本で家庭内暴力といえば、子から親への暴力という世界にも稀な特殊な状況を指すため、ここでいうDVはパートナー間の暴力と考える。夫婦(もと夫婦)、恋人(もと恋人)といった親密な関係の中でおこなわれる暴力である。

2000年2月に実施された総理府の全国調査によると、女性の4.6%、およそ20人に1人が「命の危険を感じる暴行を受けている」という報告がなされている。被害女性たちは、パートナーからの暴力から逃れるために、「逃げるしかない」のが現状であった。

■被害者の多くが専業主婦

暴力加害者の側には、アルコール依存、薬物乱用、貧困といった状況がある場合ばかりではない。逆に、日本のDVの問題としては、極めてストレスの高い社会背景から派生するDVもある。たとえば、学歴社会、出世競争といった中で、世間ではエリートの顔を持ち、家庭の中だけで暴君としてふるまう男性が加害者となるDV事件も多く存在している。加害者の職業として一番多かったものが医師と自営業者、二番目は公務員といった調査結果もある。知識も経済力もある層だ。被害者となる女性の多くは専業主婦であり、夫によって経済的に支配され、友人や親族といった社会からも孤立させられているため、助けを求めることができない状況下におかれてきたのである。

象徴的な事件として、1999年カナダ・バンクーバーでおこった日本大使館総領事(51才男性)が妻を殴って地元警察に逮捕された一件がある。彼は、「日本では古来から夫は妻を殴っても構わないものだ、これは文化の違いである」と主張しバッシングを受けた。すべての日本男性が彼のように考えているわけではないが、現在の制度としては存在していない過去の家父長制の中に根づいていた「妻は夫に従うべき」という思想を曲解している男性の中には彼と同じ考えを持つ人がいることも否定できない。

■DV事件に対する刑罰の軽さ

また、暴力を罰するという意識も低いと言わざるをえない。2000年に出されたDV事件の判決では、「長年にわたって暴力をふるい続けて大けがをさせた」傷害事件で、懲役7ヶ月〜1年6ヶ月程度、あるいは30万円程度の罰金刑のみという判例が多くみられる。また、「継続して殴る蹴るなどの暴行を加え続けて妻を死亡させた」傷害致死事件では、懲役6〜8年。殺人に死体遺棄が加わって懲役10年という判例が多くみられる。こういった判例を見るにつけ、暴力を受け続ける恐怖に対する理解のなさ、人命の軽さを感じざるをえない。逆に、DVを繰り返す夫を殺害した妻たちへの判決は、懲役3〜4年執行猶予つきが多く見られ、暴力を繰り返した夫の落ち度への言及もされている。

日本の法律では、女性に対する暴力やつきまといについては、通常の傷害や暴行といった犯罪への懲罰としては刑法で行い、被害者の安全確保には、民事保全法による仮処分が活用されてきた。しかし、それらの法律だけではカバーしきれない問題点もあった。まず、夫婦間の場合、暴力が発覚しにくい。次に、法は家庭に入らずという原則から警察などの第三者が介入しづらいという点。

■DV防止法が2001年10月に施行

それらカバーしきれない部分について、2000年11月から「ストーカー規制法」が施行されており、それを追うかたちで2001年4月、議員立法によって5日間のスピード審議で可決された「DV防止法(配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律)」が成立している。(同年10月より施行)

「DV防止法」の内容では、夫婦だけでなく、事実婚や離婚後の元配偶者も救済の対象に含めている。DVの防止と被害者保護を国や地方自治体に義務づけており、都道府県では、2002年度から婦人相談所などを活用した「配偶者暴力相談支援センター」を設置し、相談受付や一時保護などにあたることとなる。

この新法によって、被害者が重大な危害を受ける恐れが大きいときには、被害者からの申立てによって地方裁判所が加害者に(1)住居や勤務先への6ヶ月間の接近禁止。(2)2週間の住居退去。それぞれの命令を出すことができるようになった。加害者側が保護命令に違反した場合には、1年以下の懲役か100万円以下の罰金を科す罰則も設けられている。

■人権を守る取り組みの始まり

法制化によって「夫婦間の暴力は人権を侵害する犯罪である」とみなし、刑事罰の存在がDVへの抑止力になるという評価できる点もあるが、被害者が申立てを行わなければならないなど、手続きの煩雑さや運用面での問題点があることは否めない。また、今回の新法では、身体的暴力のみへの対応であり、精神的暴力あるいは経済的暴力への措置は含まれていない点も気がかりであり、今後の課題として残されている。

また、今まで一時避難所として機能してきたシェルターは全国に40数ヶ所しか存在していなかった。それらはいずれも経営的には困難な状況にあった。今回の新法によって経済的支援が行われることもあり、また自治体でシェルター設置を決めたところもある。さまざまな角度から、人権を守る視点でDVをとらえた第一歩を踏み出したところである。

ページトップへ

WOMの関連ページ

子どもと女性の医療・福祉相談窓口
DVに悩んだら

オンライン女性学辞典
DVとは

法律・条約
DV防止法
ストーカー規制法


関連リンク

チェリー・ブラッサム

は〜とふるらんど


東京家族ラボ

1997年設立。離婚相談を行っていた池内ひろ美が、夫婦だけでなく夫妻それぞれが育った家族に遡り考えるため、精神科医・心理カウンセラー・弁護士・行政書士・探偵等の協力を得て組織化し開設。現在、夫婦問題相談、精神科医セラピー、心理カウンセリング、弁護士による家族問題法律相談等の個人セッションはじめ、家族問題セミナーの開催、対人関係構築のためのワークショップ等を行う。調査部(探偵業務)も併設している。

〒171−0031
東京都豊島区目白3−21−6−102
電話:03−3953−3395
メールアドレス: kazoku@ikeuchi.com

池内ひろ美
1961年岡山市生まれ。32才で一女を連れて離婚した後執筆活動を行う(日本ペンクラブ所属)。著作「リストラ離婚」「リストラ家族」「池内ひろ美の離婚相談所」ほか多数。テレビ朝日「スーパーモーニング」、日本テレビ「レッツ」レギュラーコメンテータほか、テレビ・ラジオ等随時出演。各地の講演にも奔走。

 


私たちの現在では、日本の女性と子供の人権に関わる社会問題に取り組んでいる個人・グループに、それぞれの分野について報告していただます(内容は2001年10月時点でのものです。)
また、現代日本女性の生き方を海外に紹介する目的で、英訳「Japanese Women Now」をWOM英語版ホームページに掲載しています。

今回取り上げたトピックは、ドメスティック・バイオレンス、夫婦別姓、介護、女性の就労、セクシャルハラスメント、雇用機会均等法、 シングルマザー、児童虐待、女性と医療、 リプロダクティブ・ヘルスです。一覧は、こちらです。

WOMでは、これらの人権問題に悩む人が利用できる全国の相談窓口データベースを作成中です。女性と子供の人権に関する相談機能をお持ちの公共機関・団体・市民グループからの情報を募集しています。詳しくは、 子どもと女性の医療・福祉相談窓口 をご覧下さい。

このコーナーは、(財)女性のためのアジア平和国民基金より2001年度自立活動助成金を受けて作成いたしました。


WOMのホームページへ
Last Updated January 26 2001, ©2001 Women's Online Media 禁無断転載