福田康夫首相(自民党総裁)が、政権発足後初となる内閣改造に踏み切った。あわせて自民党役員人事も実施した。
昨年九月に発足した福田政権は、安倍前内閣の閣僚をほぼそのまま引き継いでいた。最大の焦点は「自前の内閣」にふさわしい福田色を打ち出せるかどうかだったが、顔触れは新味に乏しかった。支持率低迷に苦しむ福田政権が、人心を一新してやる気をみせようとしたのだろうが、高揚感が伝わってこない。
内閣の要である町村信孝官房長官は留任した。町村氏は実務能力に定評がある一方で、公務員制度改革では官僚寄りとの批判が出た。続投は、福田政権の改革意欲に懸念が持たれないだろうか。
総務相の増田寛也氏、外相の高村正彦氏、厚生労働相の舛添要一氏も留任した。重要閣僚に大きな変化はなかった。さらに、自民党幹事長の伊吹文明氏は財務相、政調会長の谷垣禎一氏は国土交通相、総務会長の二階俊博氏は経済産業相に就いた。党執行部から、今度は閣内で福田政権を支えることになるが、横滑りである。
女性は野田聖子氏が消費者行政推進担当相、中山恭子氏が少子化・拉致問題担当相に起用された。また、自民党幹事長には麻生太郎前幹事長が就いたが、サプライズ人事といえるほどではあるまい。奇をてらうよりも経験や実績を重視した重厚な人選で安定を狙ったのだろう。
自民党内で消費税率引き上げの必要性を訴える「財政再建派」と、成長重視を掲げて増税に反対する「上げ潮派」の路線対立が激しくなっていたが、経済財政担当相に財政再建派の与謝野馨氏が起用されたことは、首相の消費税引き上げ意欲の表れとみることができよう。首相は、消費税引き上げに関して「二、三年の長い単位で考えたことを言った」と軌道修正したものの「決断しなければならない大事な時期だ」と増税に意欲をにじませる発言をしている。
一方で、「上げ潮派」の反発が強まりかねない。党内に亀裂が生じるようなことになれば首相の求心力は弱まろう。
共同通信社が主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)閉幕後の七月十一、十二両日に実施した全国電話世論調査では、福田内閣の支持率は26・8%で、前回六月調査の25・0%並みだった。サミットによる政権浮揚効果は表れず、内閣改造でも支持率が上昇しないようでは、政権運営は厳しさを増そう。福田改造内閣の結束力と実行力で実績を挙げる以外にない。
政府は原油価格高騰で経営環境が悪化している漁業者向けの緊急対策をまとめた。総額は七百四十五億円で、燃料費増加分の九割の補てんを盛り込んでいる。一連の原油高で、特定産業に対象を限定しての直接補てんは異例である。
魚の値段は市場での競りで決まるが、入荷量や品質、ブランド力などさまざまな要素が絡み、燃料費アップといった操業にかかるコストを値段に反映させるのは難しいのが実情だ。加えて、消費者の魚離れは進んでおり、海外からの安価な輸入魚も増えている。
政府は昨年末に中小企業や農林漁業者への原油高対策を打ち出しており、漁業者向けには省エネ型漁業への転換促進のための基金を創設した。しかし、燃料費補てんを求める声は強まる一方で、まず六月に全国の小型イカ釣り漁船が二日間の一斉休漁を行った。七月には全国漁業協同組合連合会が一斉休漁するとともに、東京で決起集会を開いた。農業や運輸業など他の業種への対応も求められることから消極的だった政府だが、全国の漁業者の声を無視できなくなっていた。
補てんは、燃料消費量を一割以上削減する五人以上の漁業者グループを対象としており、省エネへの取り組みが前提条件になっている。期間も原則一年という一時的な措置だ。ただ、これで当面の操業はしのげても、原油価格が下がるような気配はない。業界全体としてコスト削減に向けた構造改革が求められよう。
緊急対策にはこのほか、省エネ機器導入資金の要件緩和や省エネ操業を支援する融資制度創設などが盛り込まれた。省エネを推進し、業界の体質強化を促進するために、政府の一段の積極的な取り組みが必要だ。
(2008年8月2日掲載)