アニープラネット
コラム

第187回

「闇の子供たち」「TOKYO!」「シャッター」「近距離恋愛」
「ホートン ふしぎな世界のダレダーレ」「キズモモ。」

だいぶ暑くなってきた。梅雨はこれからが本番。今年は集中豪雨が多そうで、いやな予感がする。


阪本順治監督の「闇の子供たち」はタイの幼児売春、人身売買をテーマにした問題作で、これほど重いテーマの作品は珍しい。ことに日本人の子供が心臓移植を受けるとき、タイの子供が生きながら臓器を摘出されるという話は驚愕させられた。こんなことがあってよいものだろうか。しかし原作者の梁石日は、かなり綿密な調査をしたうえ小説にしているようだ。日本人俳優では江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡らが出演しているが、スターを並べた劇映画という感じはまったくない。圧倒的に現地の人々のリアルな描写が光る。江口が演じている新聞記者の社内は毎日新聞で撮影されている。窓から見た皇居の景色が、私には懐かしかった。ただ、江口が遭遇するタイのNGOが襲われる現場や、江口が過去の秘密に苦しむシーンは、出来がよいとは言いがたい。観客は裏切られたと感じるはずだ。見終わって爽快感がないのはそのせいだろう。この映画を見て一番憤りを覚えたのは、幼児売春の客である日本人の身勝手さだ。阪本監督もそれが一番訴えたかったのではないだろうか。まったくこういう人間には恥を知れ、といいたい。2時間18分。8月2日公開。


「TOKYO!」は、東京を舞台にしたオムニバス映画。「恋愛睡眠のすすめ」などのミシェル・ゴンドリー、「ポンヌフの恋人」のレオス・カラックス、「殺人の追憶」のボン・ジュノ監督が縦横無尽にカメラを回し、ややSFチックな3本に仕立てている。出来はボン・ジュノが一番いい。香川照之が無人の街を走るところは、平山秀幸監督の「ターン」を思い出させた。レオス・カラックスがマンホールから怪人を出現させ、「ゴジラ」のテーマにあわせて銀座を歩かせたシーンもおもしろかったが、怪人が何を言っているのか、目的は何かなどわからないことばかり。とにかく、東京は外国人から見るとまったく異質な街に思えるらしい。晩夏公開。


アメリカ映画の「シャッター」も外国人にとっての異質な街、東京が効果的に使われている。基はタイ映画「心霊写真」で一瀬隆重プロデューサーらがアメリカ、日本向きに改装している。監督はホラー得意の落合正幸。カメラマンのベン(ジョシュア・ジャクソン)とモデルのジェーン(レイチェル・テイラー)は結婚後、日本に仕事を兼ねてハネムーンに来る。山の中をドライブするうちに若い女性(奥菜恵)を撥ねてしまう。しかし、どこを探しても彼女は見つからなかった。それから写真に異様なものが写り始める。ホラーとしてはどぎつくなく、オーソドックスな出来。新妻が東京でさまようところは、その心細さがうまく出ている。9月6日公開。


「近距離恋愛」は、長い間親友として付き合ってきた男女の女性が結婚することになって、男性がその価値に気づく。よくある話ともいえないが、そういうことがあっても不思議ではない。男性はパトリック・デンプシー、女性はミシェル・モナハン。ハンサムで女好きのデンプシーは、女性関係も含めモナハンに何でも相談できる。その彼女がスコットランドに出張中、貴族と相思相愛になり結婚することになる。軽ーい恋愛喜劇で、ハリウッド映画はこういうのが大得意。私はスコットランドのキルトや、名物料理のハギスがめっちゃまずかったのを思い出して懐かしかった。7月12日公開。


「ホートン ふしぎな世界のダレダーレ」はFOXのアニメ。ゾウのホートンがほこりのように小さな世界に住むダレダーレ国を救うために奮闘する。目に見えないものでも存在することがあるとか、どんなに小さくても人は人といったメッセージが、小さな子供にもわかるように描かれている。よくできたアニメだと思う。7月12日公開。


日本映画「キズモモ。」は自転車で旅する若者(馬場徹)がオリジナル時計の工房で働く若者(古川雄大)に出会うが、彼はかつての親友にそっくりだった。デジタルで手軽に作られたと思える作品だが、人間を信じるやさしさがあるところがいい。キズモモとは傷ついた桃ということ。山本透監督。秋公開。



Written by 野島 孝一

戻る
ページトップへ
Annie Planet (C) 2004 All rights reserved.