最近では音源も随分進化していますね。サンプリング音源はより生に近い音が出るようになってきていると思いますが。
U: 僕はサンプリングに対して本物の音にどれだけ近付けるか、という近似値を得る考え方と、今まで聴いたことのない音をつくり出す道という二種類の考え方があると思っていて、どちらの場合にしてもサンプリングにしかできないことがあると思っています。生楽器があるからサンプリングがいらないとかは全く考えていないですし、サンプリングにはサンプリングならではの使い方があると思っています。

ローランド製品では、JP-8000、RD-600、VK-7、JV-2080などを使用されているとのことですが。
U: JV-2080はもう5年以上前から使っていて、僕の制作におけるモジュールの主力になっています。最近はJV-2080の上位機種のXV-5080も使ってみたいと思っているんですよ。

JV-2080のどんなところが気に入られているのでしょうか。
U: まずボードを埋め込むことによってとにかくプリセットの音が多いというのが魅力なんですよ。僕はチャンネル数をたくさん使うんですが、パッチを組んだ時にエフェクターの回路は変わるんですが、音の劣化を感じさせないところがいいんです。エキスパンション・ボードはピアノとビンテージ・シンセ以外はほとんど持っていると思います。

特に気に入っているエキスパンション・ボードはありますか?
U: ボードはめいっぱい挿しっぱなしにして使っていますが、曲に合わせて欲しい音を探していくと、結果的にJV-2080の音を使っていることが圧倒的に多くなっているんです。特に気に入っているものがあるわけではないです。音を選ぶ理由は毎回違うから、ここがいいとは一言では言えません。

元ちとせさんの「ワダツミの木」のオケでも、JV-2080を使用されたとか。
U: メイン・オケはJV-2080ですね。あとはRD-600も使っていますし、シンセ系の音はすべてJP-8000を使っています。




元ちとせさんの「ワダツミの木」と「ハイヌミカゼ」の2曲を手掛けられましたが、2曲とも元ちとせさんのすべてを引き出したような曲でした。曲を作るにあたって元ちとせさんをどう意識されましたか?
U: 理屈抜きで声が持っている魔力に魅力を感じたんです。別にそれを引き出そうと思ったわけではなくて、放っておいても自分から出すだろうから、そこにターボをかけてやるという感じ。音楽ってもともとユタとか霊媒師のようなものと一体じゃないですか。で、彼女はある種のメッセンジャーだという意識があると思うんです。でもユタは自分がメッセージを持っているのではなくて、上から降りてくるメッセージを伝える役割ですよね。彼女も同じでなにを歌うかということに関してはあまりこだわりを持っていない。日本にそういうタイプのミュージシャンがいるとは思っていなかったので驚きましたね。

凄く個性的なボーカリストなので苦労した点も多いのではと思いますが。
U: いや、能力がある人だから、「どうしよう?」と考えるのが楽しくてしょうがなかったですね。最初は半音下げてって言っても全然音がとれないから「こりゃ大変だな」って思ったんだけど、実は1音を3分割から4分割くらいで考えていたんです。彼女の音楽は民俗音楽だから、我々の12音で割った楽譜と違う楽譜で音を捉えているんだよね。

ミュージシャンとして、プロデュースする立場ではどのようにミュージシャンと接しているのでしょうか?
U: どこまで前に出ていくのかとか、何をしてあげるべきなのかという問題は相手を見て決めるしかないな。音楽の場合、その人に足りない部分があったとしても、それを補填するのが正しいとは言い切れないんです。今の若い人ってクラシック奏者でもない限り全体的にしっかり勉強してるわけではないので、ザルのようにボコッと抜けている部分があって、それが逆に面白いと思うんですよね。最近プロデュースした「カナリア」というユニットは、ノイズとか一切ない爽やかな音を作るんですが、アタマを抱えちゃうくらい凄く暗い。でも凄くいいなと思うからやってみようと思うんですよ。

「百物語」とタイトルされた、毎回ひとつのテーマを持ったソロ・ライブを展開されていますが、9月28日に開催される第十五話はどういった内容になるんのでしょうか。
U: 毎回テーマを決めてライブを100回やると決めておこなっているものなんですが、今回は残像がテーマになります。映像は一時停止すると絵が止まりますが、CDは一時停止を押すと時間が止まってしまったために音も止まってしまいますよね。つまり音のひとつひとつには時間性というものが必要で、「音の本体はどこなんだ?」といっても分けては取りだせない。それを音楽で表現しようと思っているんです。最近テーマが難しくなってきていて気難しくみられちゃう(笑)。自分でもどうかなと思いますけどね。


最後に読者に向けて、曲作りのアドバイスをお願いします。
U: プロになりたい人とそうでない人で、全く違うと思うんですよ。趣味の範囲でやるぶんには好きな部分を勉強して好きなものをやるだけでいいんですが、プロなら「○○風」ではない人にならなければいけない。「○○さんみたいな音楽がやりたいんです」って言っても、すでにその人がいるんだったらその二人目はいらないですから。もちろん音楽に影響を受けることは当然なんですが、それをそのままやってもつまらないじゃないですか。たまに「洋楽と変わらないですね」なんて褒め言葉のつもりで言われることもありますが、もうそんな時代じゃないですよ。ロンドン、NY、パリと東京が平等に面白いと思える音楽を発信できるような、次のことを考えていかないとダメだなって思います。

「音楽を作るということは終わりがない作業。退屈をしない反面どこを現時点の100点にするのかがとても難しい」とおっしゃる上田さん。興味を持ったことに取り組んで、常に吸収しながら進化を繰り返す過程こそが、上田さんの楽曲が持つ独特な世界観であり魅力なのだと感じました。第十五話となるライブは上田さんの「今」に触れられる機会。ほんとうに楽しみです。



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