弁護士・永沢徹 M&A時代の読解力

バックナンバー一覧

このページを印刷

【第40回】 2008年08月01日

TBSが旧ソニープラザ買収
物販事業に走るテレビ局の台所事情

――広告収入低迷で岐路に立つ地上波放送

 そして、近年の広告収入減少の大きな要因の1つとなっているのが、2007年12月に第3次施行された「貸金業法改正」である。これにより、それまでテレビ局の広告収入を支えてきた「消費者金融」会社の広告が一気に激減したのである。

不動産収入でなんとか
帳尻を合わせているが・・・

 このようにテレビ局において、視聴者の減少→視聴率の低下→広告の減少→売上の減少→利益の低下 という負のサイクルが始まっており、放送事業自体にかげりが出始めている。実際に2008年3月期の売上高を見てみても、キー局各社は軒並み前年と比べて減少している(テレ朝だけはわずかにプラスとなっているが)。

■キー局各社の売上高(2008年3月期)と前年比
・フジテレビ:5755億円(-1.2%)
・日本テレビ:3422億円(-0.4%)
・TBS     :3151億円(-1.1%)
・テレビ朝日:2528億円(+0.6%)
・テレビ東京:1217億円(-2.0%)

 売上高減少の最大の要因はもちろん広告収入の低迷だろう。しかし、かろうじて-1%程度で留まっているのは、放送事業以外の収入があるからだ。その大部分は映画製作や不動産収入である。特にTBSは、赤坂サカスとして再開発されている本社周辺の膨大な土地や東京エレクトロンの株式といった優良な資産を多く保有している。その不動産収入や株式配当金や株式売却益でなんとか帳尻を合わせている状況だ。

 しかし、今後さらに広告収入が落ち込むことになれば、話は違ってくる。仮に広告収入がさらに10%落ちることになれば、会社の存続にも関わる大きな影響を与えることになるだろう。不動産収入などではとてもそれを賄えない状況に陥ることになるのだ。

「高コスト体質」を
抱えたままのテレビ局

 ただ、まだ改善の余地はある。テレビ局は売上高に比べて、利益率が低いといわれている。その背景にはテレビ局が抱える「高コスト体質」という問題がある。番組制作にお金がかかるだけでなく、それを支える社員の人件費が高いといわれている。中でも、TBSとフジテレビは、直近の有価証券報告書によれば、従業員の年間平均給与が1500万円を超えており、多くの上場企業の中でも給与水準の高さは群を抜いている。

 映画事業やDVD販売などが好調なことから、利益率が高いといわれるフジテレビであっても売上高営業利益率は、4.2%にすぎない。TBSは6.5%とそれよりも利益率は高いが、それは不動産収入が多いため。いずれにしても、本業である放送事業においては、高コスト体質であることは間違いない。

 それは、大きく儲けることよりも、お金をかけてでも良質なコンテンツを作りたいという思いもあるだろう。それに大幅に利益を上げてしまうと、国から「もっと電波使用料を払え」といわれてしまうことにもなりかねない。

関連キーワード:コーポレートファイナンス M&A・合併統合 投資ファンド 不動産 会社経営 メディア 企業

ソーシャルブックマークへ投稿: このエントリーを含むはてなブックマーク この記事をYahoo!ブックマークに投稿 この記事をBuzzurlに投稿 この記事をトピックイットに投稿 この記事をlivedoorクリップに投稿 この記事をnewsingに投稿 この記事をdel.icio.usに投稿

おすすめ関連記事

special topics

バックナンバー

第40回 TBSが旧ソニープラザ買収 物販事業に走るテレビ局の台所事情 (2008年08月01日)
第39回 「不動産バブル崩壊」で相次ぐ倒産。 “物件ありき”から“体力勝負”へ (2008年07月25日)
第38回 「仕入れ値を開示せよ!」 セブン-イレブン加盟店の訴えは当然 (2008年07月18日)
第37回 急増する景品表示法違反 「六甲のおいしい水」にも排除命令 (2008年07月11日)
第36回 「ヤマダ電機」取引先従業員“タダ働き”で公取が指摘した問題点 (2008年07月04日)
第35回 ニッポン放送争奪戦“影の主役”が新たに仕掛けた「損保再編劇」 (2008年06月27日)
第34回 「ライブドア株主賠償」95億円判決 “株の損害”をどう立証するか? (2008年06月20日)
第33回 創業者夫人がカギを握る「マンション管理業」争奪戦 (2008年06月13日)
第32回 買収防衛策が裏目に出たアデランス経営陣の誤算 (2008年06月06日)
第31回 キャッチコピーの類似を権利侵害とするか?アイス業界の冷戦の行方 (2008年05月30日)

注目の特集

【子供を襲うネット・ケータイの罠】

知らぬは親と教師ばかり ケータイとネットに潜む罠

子供の携帯電話の所持率が増加する中、携帯電話やインターネットでのトラブルが増加の一途を辿っている。犯罪に巻き込まれることも少なくない。その実態を追った「週刊ダイヤモンド」編集部総力特集

ページの上に戻る

強力コラム執筆陣が時代を斬る!

JavascriptをONにしてください

執筆者プロフィル

写真:永沢徹

永沢徹
(弁護士)

1959年栃木県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後の84年、弁護士登録。95年、永沢法律事務所(現永沢総合法律事務所)を設立。M&Aのエキスパートとして数多くの案件に関わる。著書は「大買収時代」(光文社)など多数。永沢総合法律事務所ホームページ

この連載について

弁護士・永沢徹が、日々ニュースを賑わす企業買収・統合再編など、企業を取り巻く激動を、M&A専門家の立場からわかりやすく解説していく。

話題の記事・注目の記事

スクエア画像
経済ジャーナリスト 町田徹の“眼”
日本はWTO交渉決裂に安住せず、自由貿易拡大を加速させよ
スクエア画像
岸博幸のクリエイティブ国富論
クリエイティブ産業が日本を救う!
スクエア画像
働く男女の「取扱説明書」
負けるのが怖い――若手男性に増殖する「女性がうらやましい症候群」
スクエア画像
週刊・上杉隆
イチロー3000本安打達成で大騒ぎする日本のマスコミを嘆く
スクエア画像
週刊ダイヤモンド ITBizNews
ニコンvsキヤノン!デジタル一眼レフカメラ “フルサイズ”戦争の熾烈
スクエア画像
高城幸司が聞く「社長直伝 仕事の極意」
スタートトゥデイ 前澤友作 社長に聞く【前編】 「『メッセージ』は“自然体”で“ストレート”に」
スクエア画像
SPORTS セカンド・オピニオン
高校野球“公立校”びいきの原因は、 「特待生騒動」の後遺症?
スクエア画像
ソーシャルウェブ革命の衝撃
世界のガンプラマニアを魅了! バンダイホビーセンター驚異の感動創造術
スクエア画像
inside Enterprise
マンション業界にさらなる打撃!生コン偽装で相次ぐ販売休止
スクエア画像
週刊ダイヤモンド編集長インタビュー
物理学者エリヤフ・ゴールドラット 「驚くほど単純な現実を複雑化してしまうのが企業の過ち!」
スクエア画像
News&Analysis
外食産業が不調の中、意外なブームに沸く回転寿司
スクエア画像
ビジネスモデルの破壊者たち
マケイン完敗!オバマの驚くべきインターネット活用術
スクエア画像
辻広雅文 プリズム+one
社会保障「5つの安心プラン」という選挙対策のむなしさ