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論 点 「小泉改革はどうなったのか」 2008年版
改革の手綱を緩めるな――配慮や優しさだけで強い日本はつくれない
[改革の進展についての基礎知識] >>>

たけなか・へいぞう
竹中平蔵 (慶應義塾大学教授)
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二%程度の潜在成長率に甘んじていいのか
 安倍総理辞任と福田内閣の発足を経て、小泉内閣以降論じられてきた構造改革路線の是非がふたたび議論されている。二〇〇七年(平成一九年)七月の参院選、九月の自民党総裁選などを通して「改革の陰の部分」という表現が頻繁に登場し、また疲弊する地方経済を念頭に、地方への「配慮」や「優しさ・思いやり」という表現が用いられるようになった。
 しかし、対外的にはグローバル競争が進み、国内では人口減少と高齢化が進行する。日本経済をとりまく環境がますます厳しくなる中で、国民生活を改善するために改革路線の継承・強化がどうしても必要である。以下では、今日の状況下で改革がなぜ必要なのか、あらためて整理しよう。
 日本経済は、戦後最長の景気回復局面にある。この状況は、〇一年に小泉内閣が発足した頃とは様変わりだ。当時GDPはマイナス成長。さらに銀行の不良債権問題で「金融危機」が迫っていた。ロンドン・エコノミスト誌は日本特集を組んで、「もしも日本が不良債権を償却しないなら、世界が日本を償却する」とまで主張したのである。
 〇二年三月、主要行の全貸し出しに占める不良債権比率は八・四パーセントに達し、貸し渋り・貸しはがしによって、経済全体が疲弊していた。しかしいまでは、同比率も一・五パーセントまで低下し、経済は正常化された。〇三年から〇六年までの過去四年間、日本の成長率は本来の成長力(潜在成長率)である二パーセント程度を維持している。
 現状の日本経済の最大の課題は、さらに構造改革を進め、潜在成長率そのものを高めることである。規制緩和や民営化、効率化を進めることで、現状では二パーセント程度と見られる成長力を、二・五パーセント、さらには三パーセントへと高めることが期待される。じつは、アメリカ経済の成長力は一九八〇年代まで二パーセント程度と見られていたが、今日では三パーセント強に上昇したことが知られている。このような、改革による成長強化のシナリオを、安倍総理も支持していた。
 しかしながら小泉総理が去った後、改革の勢いは低下している。小泉内閣で決定された郵政民営化に匹敵するような大胆な改革メニューは、その後示されていない。既得権益を守ろうとする政治勢力がしだいに力を持つ中で、安倍総理の辞任と福田内閣発足に至ったのである。


第一の改革は終わった。第二、第三を急げ
 そもそも、構造改革とはきわめて幅広い概念であるが、主要なポイントは以下の三点に集約されてきた。
 第一に、緊急の課題として、「失われた一〇年」を生み出したバブル崩壊による「負の遺産」を一掃することであった。ここでいう負の遺産とはまさしく不良債権問題である。正確には、銀行の不良債権、借り手(企業や個人)の過剰債務というバランスシートの歪みを除去することである。
 第二は、厳しいグローバル競争を勝ち抜けるような「強い日本経済」をつくることである。具体的には、自助・自立型の社会をめざして競争政策を高め、政府の介入をできるだけ減らすことが必要だ。「民間でできることは民間で」「地方にできることは地方に」が具体的に意味するのは、強力な規制緩和や民営化、そして分権改革である。
 第三は、財政に関するものだ。深刻な日本の財政赤字問題を解決するのは言うまでもないが、その際小さな政府を志向し、歳出削減を主体に改革することが重要だ。必要な増税は否定しないが、人口減少・高齢化社会で後世代に過大な負担をかけないためにも、また財政至上主義に陥ることなく、強い成長経済を実現するためにも小さな政府が志向される。
 すでに明らかなように、第一の不良債権問題はおおむね解決し、日本経済は「失われた一〇年」から脱却した。しかし第二の強い経済の建設は、その第一歩としての郵政民営化がはじまったばかりであり、今後の課題はきわめて多い。抜本的な教育改革(東大民営化などを含む)、徹底したオープンスカイ政策、外貨準備の運用改革(日本版GIC設立)など、検討すべき大きなスケールの制度改革は後を絶たない。また第三の財政については、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支回復に向けた改革の途上にある。これを実現させることは言うに及ばず、その後の財政健全化目標をどうするかという根本問題を議論する必要がある。
 このように、改革はまだはじまったばかりなのである。一方で世界の状況を見ると、日本経済をとりまく環境はきわめて厳しい。アメリカに端を発した最近のサブプライム問題でも、日本の株価下落が主要国で最大のものとなった。これは、日本経済が正常化されたとはいえ、まだ期待成長率が十分に高まっているとはいえないことを示している。いまこそ改革を強化することが求められるのである。


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たけなか・へいぞう
竹中平蔵

1951年和歌山県生まれ。一橋大学経済学部卒。96年より慶應義塾大学教授。経済学博士。2001年小泉内閣発足にともない入閣、構造改革推進の原動力となる。経済財政担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣を歴任。04年参議院議員に初当選するが、06年小泉内閣終焉とともに辞職し、慶應義塾大学に復帰、グローバルセキュリティ研究所所長に就任。『構造改革の真実――竹中平蔵大臣日誌』『竹中平蔵の特別授業』など著書多数。



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