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【産経抄】8月1日
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きょう、1周忌を迎えた阿久悠さんの多彩な仕事のひとつに、「ニュース詩」がある。報道から抜け落ちた「時代の風」をとらえて、100編まで書いた。2001年3月2日の日付があるのが、「イチローとシンジョー」だ。
▼「アリゾナの眩(まぶ)しい陽(ひ)の下であろうが/イチローがボックスに立つと/嵐呼ぶ草原をかき分けて行く/サムライに見える」。米大リーグのオープン戦が始まり、先発出場したイチローの姿が、決闘の場に向かう侍と重なっている。
▼やはりこの日出場した新庄は、「見事なくらいにアッケラカンと/もうアメリカ人になれたかと/楽しく笑っている」。こちらはカウボーイ姿か。新聞やテレビは、大リーグに挑戦している日本人選手全員を「サムライ」と呼ぶが、阿久さんには、厳密な定義がある。禁欲的で、物静かで、尊厳を失うことを何より恐れる男たちのことだ。
▼そのイチローが、日米通算3000安打を達成した。客席からの歓声に、一塁塁上で軽くヘルメットを取って応えたしぐさが、彼らしかった。大変な偉業ではあるものの、正式の記録とは認められない。これが、米国の大多数のファンの見方のようだ。
▼日本の投手から打ったヒットは、大リーグに比べて価値が低いというのだ。さらに、長打と四球が少ない、チーム全体のことを考えない、といった批判も地元メディアで目立つようになってきた。本場のベースボールとは、そういうものかもしれない。
▼イチローはそれを承知しながら、自分のスタイルを貫いていくのだろう。いつか、地元ファンが脱帽する記録を達成する日まで。「彼はアメリカに同化するのではなく/アメリカを闊歩(かっぽ)しようとしている」。阿久さんの予言は当たっていた。