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【主張】福田改造内閣 一丸で危機を乗り切れ 保守カラーの鮮明化に期待
福田康夫首相は自民党役員人事を刷新し、内閣を改造した。自前の内閣で衆院を解散し、総選挙を行うとの意思を明確にしたものだ。日本が抱える内外の諸懸案を解決するための処方箋(せん)を提示し、実行することが責務だ。国民の期待に応えなくてはならない。
注目したいのは、選挙の陣頭指揮に立つ自民党幹事長に麻生太郎元幹事長を起用したことだ。窮地に立たされつつあった福田首相の起死回生策といえる。
麻生氏は「自民党結党以来の危機に何もしないでいいのか」と受諾の理由を述べた。自民党の支持率は各種世論調査で民主党を下回っており、次期衆院選で極めて厳しい戦いを迫られよう。日本が進むべき方向を自民党が責任を持って明示することで、危機を乗り越えるしかあるまい。
経済財政運営も極めて微妙で難しい状況にある。米サブプライムローン問題の影響を受けているうえ、原油などの資源インフレが物価を押し上げている。景気は後退懸念が出るほど減速感が強い。
こうした経済状況に総選挙対策が加わり、与党内には民主党と競い合うように歳出圧力が高まっている。来年度予算の概算要求基準(シーリング)は歳出削減路線を踏襲したが、原油高対策などを理由に大型の今年度補正予算を編成する動きまである。
≪歳出圧力を押さえ込め≫
改造内閣はまず、この歳出圧力をどう押さえ込むかである。すでに日本は人口減社会に入り、少子高齢化が猛スピードで進む。こうした中で持続可能な社会保障制度の構築と財政再建を両立せねばならず、財政規律は微塵(みじん)も緩めてはならない。
歳入改革も待ったなしだ。来年度から基礎年金国庫負担割合2分の1引き上げが実施されるのに、首相はその財源にふさわしい消費税の引き上げを事実上、先送りした。これでは首相が抜本改革と位置づけた今秋の税制改正論議は、その名に値しまい。
政府は2011年度の基礎的財政収支黒字化を目標としている。内閣府試算によれば、最大限の歳出削減を実施しても多額の赤字が発生する。少なくとも消費税の引き上げ工程を今秋の税制改革で策定しないと、首相のいう安心で安全な将来社会は実現できない。
首相はそれを国民に分かりやすく説明することだ。選挙を理由に歳出・歳入一体改革から逃げれば、市場にも失望感を与え、結果的に景気悪化につながることを認識してほしい。
改造人事は、焦点の官房長官に町村信孝氏が留任したが、大幅となった。老壮青の布陣で重厚といえよう。特徴は経済財政担当相に財政規律を重視する与謝野馨前官房長官を充てたことなどだ。
消費者行政担当相に野田聖子氏、拉致問題担当相に中山恭子氏をそれぞれ起用するなど、福田カラーをにじませた。
≪首相と幹事長は協力を≫
問題は、臨時国会の召集時期など与党の政権運営の基本方針が定まらないまま、改造になったことだ。インド洋で海上自衛隊が給油支援を継続するための新テロ対策特別措置法改正案を臨時国会で成立させるには早期の召集が必要とする自民党に対し、公明党は同改正案成立に慎重な立場から9月下旬の召集を主張している。
福田首相が太田昭宏公明党代表との会談で、召集時期などを詰めなかったのは残念だ。
首相と幹事長は、海自の支援活動の中断・撤退は国際社会の責任を果たすことにならないと強調した。その通りだ。公明党は政権を担う責任を自覚してほしい。
ポスト福田の最有力候補を取り込んだことで、次期衆院選で民主党と政権の座を争う自民党の態勢は整った。麻生氏は昨秋の自民党総裁選で福田氏に敗れたが、大都市での党員投票では麻生氏が福田氏をリードした。国民的な注目度も高い。挙党態勢確立への福田首相の覚悟も伝わってくる。
ただ福田首相と麻生幹事長との間では基本政策をめぐる違いもある。拉致問題では「圧力」を重視する麻生氏に対し、首相は「対話」に関心を強めているといえなくはない。
外交政策で自由主義を掲げる麻生氏により保守カラーが鮮明になることを期待したい。
こうした政策の違いをいかに調整するか。国益実現のために両者の協力が不可欠だ。